劇場公開日 2020年7月10日

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「歴史は人々の思いでできている」マルモイ ことばあつめ マツドンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5歴史は人々の思いでできている

2022年4月17日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

1910年に韓国が併合され、
1919年に三・一独立運動が起こった。
1939年には創氏改名が実施され、韓国の8割の人が日本式の苗字を届け出た。
(ちなみに、この映画は1939年が舞台だと思われます。創氏改名が登場しますから)

と、教科書で、こんな事実を習ったはずですが、
歴史には、詳細な事実(人々が日常で体験したこと)は、記述されません。
ましてや、そこに生きていた人々の気持ちは、なかったかのごとくです。

「ひとりの百歩より、百人の一歩が大切」
代表と呼ばれていたリュ・ジョンファンが、子供のころ、心に刻んだ父親の言葉です。
時は過ぎ、その父親は中学校の校長として、皇民化の教育に加担している。
父親を責める息子に、父親は言います。「昔は独立できると思っていた」
「昔」とはもしかしたら、三・一独立運動のころのことでしょうか。
しかし、20年の月日は父親を変えた。
同じ日本人になる、という巧みな、
しかし、現実には差別的な扱いのもと、
牙を抜かれていく同朋たちの中での20年。
片や、外国留学から帰ってきて、20年前の思いそのままの息子。
父親が現実と折り合ったからこそ、得られた収入があり
その資金が支えた外国留学が、現実と抗う息子を育てたという皮肉です。

元スリのキム・パンスには、息子との間に逆パターンの分断があります。
生まれた時から併合下にあり
あたりまえのように日本人に殴られる環境下で育った息子。
アウトローの父親とは、気持ちが通じるはずもありません。

共通のアイデンティティーを失うということは
親子の間にさえも分断を生み出すということです。
だからこそ、アイデンティティーの源泉のひとつである言葉に
命をかけた人々が存在した、ということなのです。

『皇民化政策』『創氏改名』という単語に、
命を吹き込んでくれたこの映画に感謝です。

マツドン