劇場公開日 2021年9月17日

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「耳の傷は見えますか」君は永遠にそいつらより若い Maruso-さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0耳の傷は見えますか

2022年1月17日
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「耳の傷に気がつかなかった」
すぐ近くにいる人の、些細な変化や抱えてる想いに気がつくのは難しい。

「その場に行って助けてあげたかった」
その言葉と同じくらい
「君は永遠にそいつらより若い」という言葉は、猪乃木にとって大きい一言だった。
それでも、猪乃木の耳の傷に気が付けなかったことが、悔しかった。
その気持ちに応えるように、処女であることが自分の欠陥さを物語っていると考えているあなたのすべてを肯定するように、猪乃木は全身で彼女を肯定する。

猪乃木が突然いなくなった時。
直前に友人が友を亡くしていた。死んだ理由は特にない、ただただ焦燥がすべてを超えていたからだそうだ。猪乃木がいなくなった時、訳もなくただいなくなったとき、きっとその焦燥にかられていたのかもしれない。彼女がその焦燥を感じ取ったのかもしれない。いずれにせよ、猪乃木の耳の傷にはじめて気がついたのだ。今こそその場に行って助けてあげなくては、と思って、こんな言い方しかできない自分の身一つで小豆島へ猪乃木を助けに行ったのだ。
仕事の適性はわからない。
ただ、誰かが抱えている、隠している耳の傷に気がつくこと、自分にできることはただそれだけだと思ったのだろう。
ラストシーン。
「安否確認だけはするから」と、チャイムを押して状況報告に行った上司とは対象に、安否確認だけでなく子供の耳にある傷に気がつくために、彼女は自分でチャイムを押したのだと思う。

この映画を見た自分は、身近な人が隠している耳の傷に気がつくことができるだろうか。わずかな変化に気がつくことができるだろうか。
そしてその先は。
うまく言葉で助けることができなくてもいい。ただその場に行くだけでも良いのかもしれない。

けんじ