劇場公開日 2021年12月17日

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「デュポンの不正とテフロンの害に唖然! だが弁護士と映画人の良心に勇気づけられる」ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0デュポンの不正とテフロンの害に唖然! だが弁護士と映画人の良心に勇気づけられる

2021年12月18日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

怖い

知的

テフロン加工のフライパンを以前は当たり前に使っていた。テフロンがはげてきているのを使い続けるのは体に悪いというのは一応知っていたが、その有害性がまさかこれほどとは……。

この実録ドラマにおける“悪役”は、有機フッ素化合物の一種「テフロン」の特許を持ち、その製造過程で有害な物質が生じることを把握しながら、工場から40年も廃棄物を垂れ流して土地や川を汚染してきた米化学大手デュポン。名門法律事務所でもともとは企業側につく立場だった弁護士ビロットが、デュポンの工場の近くで農場を営む男性から牛の大量死を調査してくれと頼まれたことがきっかけで、巨大企業の恐るべき不正を知り、環境汚染と健康被害に苦しむ住民側につくことを決意。家族との時間を犠牲にし、自身の健康を顧みず、収入減にも直面しながら、十数年にもおよぶ不利な闘いを続けていく。

この訴訟を報道で知り、最初に映画化に向けて動き出したのが、ビロット役で主演を務めるマーク・ラファロだ。直接ビロットとコンタクトを取り、製作者の一人として脚本をマシュー・マイケル・カーナハン(「バーニング・オーシャン」)に依頼し、「キャロル」「ワンダーストラック」のトッド・ヘインズが監督を引き受けた。劇中、ビロットの上司(演じるのはティム・ロビンス)が「大企業の味方ばかりするから弁護士は嫌われるんだ。不正をしてきたデュポンを許すな!」と事務所の弁護士らを鼓舞する台詞があるが、これはきっとラファロたちスタッフとキャストの気持ちも代弁しているはずだ。

原題は「Dark Waters」だが、「水」の意味では不可算名詞のwaterにsが付いている点にも注目したい。「川」や「海」の意味で使われる場合は可算名詞になるので、つまり、この事件の舞台となったウェストバージニア州の川だけの問題にとどまらないことを訴えているのだと解釈できる。有機フッ素化合物は「永遠の化学物質」とも呼ばれ、分解されずに今や世界中の海に広がっていることがエンドロールの情報で示される。啓発と注意喚起の意義も大いに認められよう。

日本ではこうした大企業や国の不正を追及する実録ものはなかなか作られないが、邦画の作り手も本作にきっと刺激を受けるだろうし、そんな気骨のある邦画を期待する観客も増えることを願う。

高森 郁哉