劇場公開日 2020年2月22日

  • 予告編を見る

「「音」を「見る」」うたのはじまり Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「音」を「見る」

2020年2月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興味深い映画だ。
ただ、題名にこだわるのも変だが、この題名でなければもっと素直に楽しめたかもしれない。
作品のコンセプトに係わるからだ。
とはいえ、観客を呼ぶには良い“キャッチー”な表現だ。

冒頭の出産シーンは、スゴい。
上映後の夫人のトークによれば、「あたりまえのこと」だし、「自然な流れで撮ってくれたので、深い考えはなく」、「とても良いシーン」とのこと。
また、格闘技のシーンもある。
全体的にみて、題名が内容を表しているとは、必ずしも言えないと思う。

子供を「子守歌」で寝かしつけるシーンは、この映画のハイライトだろう。
必要に迫られ、コミュニケーションの道具として、飛び出してきた「うた」。
ただし、齋藤さんは、先天的に聞こえないので「音」はただの振動だとしても、全く「うた」を知らないわけではないようだ。
自身の“声”をどう把握しているのか分からないが、少なくともリズムや抑揚は、子供の頃にイヤイヤながらでも叩き込まれているらしい。
「音」と「うた」との微妙な関係。

だから自分はこのシーンを見て、「うたのはじまり」とも“原初的な衝動”という感じも全然しなかった。
作品としては、そこに観客を誘導したがっているのは、もちろん分かっているつもりだが、「うたへの“興味の”はじまり」と表現するのが正確なはず。本作の題名が腑に落ちない理由である。
「必要は発明の母」と言うが、子供を寝かすためには、好き嫌いを超えて、「うた」と“和解”せざるを得ないところが微笑ましかった。
自分としては「歌にはリズムが不可欠なのか」という、当たり前かも知れないことに気付いて、そうか~と唸ってしまった。そういえば、特にメロディーのない詩や短歌でさえリズムがある。もちろん、“ラップ”も。

また、ダンサーを撮影中に、齋藤さんは音が何だか分かったという。
「音を見る」。
実際は、無音状態で踊っていたのだが。
聴者にとっても刺激的なテーマだ。

自分は「絵字幕版」を見たが、作り手にとって、かなり思い入れのある手法のようだ。
「音を見る」ための変換装置だが、別の絵描きなら別の絵を描くはずで、絵描き個人の感性によるところが大きいと思った。
もしアートではなく、聾者に対するコミュニケーションの道具として使うなら、まずはリズム記号を伴った共通言語を作った上で、複雑さを表現する工夫が必要ではないか。

齋藤さんの知り合いの音楽家が、音楽は「栄養」だと語っている。
自分は、その「栄養」が存在しない世界は想像できないが、そういう世界を垣間見させて考えさせる作品だと思う。

Imperator