劇場公開日 2020年7月3日

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「一種の「観察映画」としての趣が。」のぼる小寺さん yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0一種の「観察映画」としての趣が。

2020年7月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

小寺さんはひたすら目の前の壁を凝視し、その周辺にいる人々はそっと互いをのぞき見る。そんな距離感の作品。大きなドラマではなく、日常の積み重ねで物語を紡いでいく巧みな語り口は、『若おかみは小学生!』の吉田玲子氏による脚本の功績でしょうか。

 物語の舞台は大部分が高校の教室と体育館に限定されていて、まるで舞台劇のような作りとなっています。さらに小寺さんの周辺にいる高校生達一人ひとりが、独立した幕の主人公として描かれます。彼らがどのような家庭環境で育ったのか、といった背景情報は、わずかな台詞という形でしか与えられません。この物語は「これまで」ではなく、「これから」をどう生きるのか、に明らかに焦点を当てていて、その行動を促すのは、大きな事件ではなく小さな経験だ、ということを示しているゆえの語り口なのでしょう。

物語の結末に至っても、その歩みは外部から見たらごくささやかなものであったり、あるいは捉え方によっては挫折だったりしますが、明らかに幕開け時よりも成長した彼らの姿があります。中でも主人公である小寺さんこそが、最も人物像の掘り下げを意図的に浅く(何を考えているのか分からない)描いていますが、これは意図的な演出でしょう。『横道世之介』(2013)と同様に、小寺さんは人々が成長するための一種の「器」として機能しているのです。

工藤遥さんのボルダリングは訓練の成果があって、あくまで素人目ですが、見事な動きでした。身体技術を駆使する場面は映像のリアリティを左右しますが、これを自然に見せてしまう演技はとても素晴らしいですね。

yui
yuiさんのコメント
2020年7月20日

たくさん読んでくださってありがとうございます!
これからもよろしくお願いします-!

yui
NOBUさんのコメント
2020年7月20日

今晩は。
 レビューを一通り、拝読させていただきました。映画に対してのスタンスが基本的に肯定的で、尚且つ作品に寄り添った品性の漂う温かみのあるレビューとそれを支える豊富な映画の知識に驚きました。
 フォローさせていただきます。
 これからも、素敵なレビューをお願いいたします。
 では、又。

NOBU
yuiさんのコメント
2020年7月20日

うろ覚えだったので念のため調べてみたら間違いありませんでした!
お役に立てたら嬉しいです!

yui
CBさんのコメント
2020年7月20日

そつか。吉田さんて「若おかみ」なんですね。なるほど。教えてくれて、ありがとうございます。

CB