劇場公開日 2022年2月25日

「髭に始まり髭に終わる」ナイル殺人事件 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5髭に始まり髭に終わる

2022年2月27日
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鑑賞方法:映画館

楽しい

知的

シリーズ前作「オリエント急行殺人事件」から4年余り。ずっと楽しみにしていたので、もちろん公開初日に鑑賞してきました。1978年版「ナイル殺人事件」も鑑賞したことがありますが、あまりにも昔のことですっかり忘れていたので、改めて名探偵エルキュール・ポアロと一緒に推理しながら楽しむことができました。

ストーリーは、大富豪のリネットの結婚を祝ってナイル川を進む豪華客船内で起こる連続殺人事件を、名探偵ポアロが「灰色の脳細胞」を駆使して解決するというもの。ミステリーの女王アガサ・クリスティの名作「ナイルに死す」の映画化です。

原作未読のため、どのあたりが改変されているのかはわかりませんが、序盤は若き日のポアロがすでに優れた洞察力を備えていたことや恋人の存在とともに、彼が口髭をたくわえるようになった理由が描かれます。その後、今回の事件につながるプロローグとも言える、大富豪リネットと後に夫となるサイモンとの出会いが描かれ、さらにその周辺の人物が次々に登場します。いつもは、顔と名前が覚えきれなくて、序盤で乗り遅れがちなのですが、本作では性別や年齢層や人種をうまく散らし、比較的見分けやすくしてくれていたのは助かりました。

また前半は、舞台となるエジプトのピラミッド、アブ・シンベル神殿、ナイル川、そこを優雅に進む豪華客船がスクリーンいっぱいに描かれ、さながらエジプト旅行をしている気分も味わえます。シーンの内容からすると現地ロケではなさそうですが、それでも目の保養になりました。豪華客船カルナック号にいたっては、本作のために実際に建設されたというから驚きです。

そして、物語も中盤にさしかかろうかというところで、いよいよ事件が起きます。と同時に、ネタバレになるので詳しく語れませんが、乗船客に対してポアロの容赦ない聴取が始まります。やや威圧的なポアロの態度には違和感を覚えましたが、彼の鋭い追及が物語を一気に加速させます。相手からさほどの話を聞くまでもなく、ポアロが次々と相手の背景や被害者との関係を暴き出すのですが、それが全て前半の何気ない会話や様子から導かれたものであることに恐れ入りました。凡人なら見逃し、聞き逃すのが普通の内容から、ここまで鋭く洞察していたとは!前半の会話劇を退屈に感じていた自分が恥ずかしいです。

この怒涛の推理から真相解明までが実にテンポよく、一気に畳み掛けてきます。前作では高速推理についていけず「オリエント急行」から振り落とされましたが、今回は我輩の“廃炉の脳細胞”でも「カルナック号」からなんとか下船せずに済みました。いやーなかなかおもしろかったです。

主演は、前作に引き続き監督も務めるケネス・ブラナーで、本作でもポアロがハマっていました。リネット役のガル・ガドットは、美しさと気品が溢れる完璧なキャスティング。ジャクリーン役のエマ・マッキーも存在感を発揮していました。全体的には前作ほどの豪華なキャスティングでないのは残念でしたが、見劣りするような演技はないので、最後までしっかり楽しむことができました。最後といえば、ラストの6か月後のロンドンシーンは必要だったのでしょうか。冒頭のシーンと対をなす、手紙の頭語と結語のようではありましたが、本編にはそれほど深く関わっていなかったような…。

おじゃる