劇場公開日 2020年12月11日

「脱原発エンターテイメント」BOLT Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5脱原発エンターテイメント

2020年12月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

林海象監督のインタビュー記事(ハーバー・ビジネス・オンライン)を読んで、観に行った。
もしその記事がなければ、この3部形式には大いに困惑しただろう。
“福島原発事故に係わる話”として観れば、エピソード1から、エピソード2、エピソード3に進むにつれて、時系列としては正しくても、明らかに“尻すぼみ”なのだ。

実際は、制作順は逆だ。
一夜限りの幻想譚であるエピソード3がまずあって、その主人公の前日譚としてのエピソード2が作られ、そして2016年のヤノベケンジ展(高松市美術館)をきっかけに、最後のエピソード1の制作が動き出したという。
それを後から編集によって、一人の男の物語の体裁に仕立て上げたのだ。

原発事故がテーマとはいえ、監督自身が「脱原発エンターテイメント」と語るように、エピソード2以外は“アート系”の作品だ。
特に、エピソード1「BOLT」は、映画館で観ないとダメだと思う。
驚いたことに、「ボルトを締めに行く」という冗談のような話は、実話だという。
しかし、金属的な効果音とSF世界的な美術があいまって、アドベンチャーゲームを観ている感覚がある。
そして、緑、青、赤紫の蛍光色で光る汚染水の描写は、不気味な映像美を追求していると言って良いだろう。

永瀬正敏が演じる主人公が共通なだけで、テーマも世界観も異なる3つの作品をつなぎ合わせたという点では、不満が残る。
しかし、インディペンデントの映画制作は厳しい。
始めから、様々な制約の中で作られ、まとめられた作品ということを分かった上で観れば、「1粒で3度美味しい」作品であるとも言えるのである。

Imperator