劇場公開日 2020年12月11日

「【人間、神】」BOLT ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0【人間、神】

2020年12月14日
iPhoneアプリから投稿

あの原発事故以来、僕達は何かを変える事が出来たのだろうか。

この作品は、こうした疑問を皮肉混じりに、しかし、郷愁をもって僕達に問いかける。

作品は3部構成からなる。

episode1: BOLT

巨大セットを建て撮影されたと説明がある。
冷却汚染水を食い止めるため、緩んだボルトを締め直すため、拙い装備で立ち向かう男たちの姿が描かれる。
しかし、人間の力は無力だ。
結局、人間は原子力という「神」の力を手に入れることも、制御することも叶わなかったのだ。
人間は、神になることは出来ないのだ。

episode2: LIFE

放射線が未だ残る避難区域に指定された被災地の民家。
老人が退去を拒み、ひとり、ひっそりと逝った。
残されたもののなかには、なまず。
この時点では、地震を象徴するものかと考えていた。

episode3: GOOD YEAR

世界的なタイヤブランドだ。
冬、自動車工場。
タイヤがパンクして、雪の中に突っ込んだ赤いオープンカー。
気絶している女。
助けた女は、おそらく妻だ。
デスクの上の写真たてのなかの妻。
既に、この世にはいないのだろうか。

ネオンの GOOD YEAR の二つ目のOの字の電気が消えかかっている。
子供が幽霊の仕業のように言うが、そうではない。
なまずの、そう、2番目のepisodeのなまずは、電気なまずで、二つ目の Oの文字は、その拙い電力で光っていたのだ。
あの亡くなった老人は、公共インフラも消失した避難区域にある家で、電気なまずの電力を利用しようとしていたのだろうか。

再生可能エネルギーを導入すると高らかに宣言しても、原発を止める決断もしない。
いつのまにか、再生可能エネルギーへのモチベーションも低下してしまったことを皮肉っているかのようだ。

原子力は「神」の領域だ。
二つ目の Oの文字の電気が消えたネオンは、
「GOD」YEAR

原子力への夢も、妻の幻影も、人に見せたのは、神だったのだろうか。
いずれにせよ、どちらも、手元に置いておくことは叶わないのだ。

全体を通して、
使命感、故郷、特定の人との思い出に縛られて抜け出すことの人間の哀れさを、新たなエネルギーに踏み出せない僕達の現状をメタファーとして対比させ、人間の現実を見つめたユニークな作品だと思う。

episode1は、巨大セットとのこと。
舞台的な感じが強く、巨大なレンチも、人間の非力さも、既に原発の中をカメラを通してニュースなどで目撃している身からすると、ちょっとリアリティとして、どうかと思ったり、どうしても違和感は残ってしまった。
ただ、とても示唆的で意見は分かれると思うが、僕は割と好きな作品だった。

ワンコ