劇場公開日 2019年11月15日

  • 予告編を見る

「本来は成立しない作品。ゆえにその異常さが際立つ」i 新聞記者ドキュメント yoneさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0本来は成立しない作品。ゆえにその異常さが際立つ

2020年10月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

森達也監督の作品。

東京新聞に勤める1ジャーナリストである、望月衣塑子さんに密着したドキュメンタリー。

監督もこの作品の中で語っているが、「なぜこの人を撮っているのだろう?」という疑問が、この作品のすべてを表しているように思える。

望月さんは何もおかしなことはやっていない。
自分で取材して事実を調査し、疑問に思ったことを官邸記者会見の場で官房長官にぶつけているだけである。

それだけなのに、官邸からは嫌がらせを受け、特別ルールを設けられて質問数を少なくさせられてしまう。菅官房長官もまともに答える気がない。
(余談だが、こんな人間が「令和おじさん」として人気があるなんて、悪い冗談としか思えない)

これが、日本のジャーナリズムの現実だ。

この映画のテーマは、一言で言うと「記者クラブ」問題だ。

これは、特段目新しい問題ではない。
というのも、この作品にも登場していたが、私はジャーナリストの神保哲夫さんが運営されているVIDEONEWS.comをずっと見ているからだ。もう20年近くになると思う。

VIDEONEWS.comは、あるテーマを決めて、そのテーマに関して詳しいゲストを呼び、神保さんと社会学者の宮台真司さんが、様々な切り口から話を深り堀りしていくインターネット番組だ。毎週新規コンテンツが追加され、だいたい1本2時間ほどある。

この中で、神保さんは日本の記者クラブ問題をたびたび取り上げている。
今作の中でも30年間戦い続けている、とおっしゃっていたが、本当に昔からスタンスが一貫している。

その人の話をずっと聞いてる身としては、この作品で扱っているテーマは当たり前のことすぎて、目新しさがなかった。

望月さんは、まだ東京新聞という記者クラブ内のグループに所属しているから質問ができるが、記者クラブに属していない神保さんはあの場で質問すらさせてもらえない。さらに、質問内容も事前に提出する必要があり、答えが用意してある。台本が決まっている芝居なのだ。しかも、その他の新聞社の会社員(≠ジャーナリスト)たちは、同じ立場の望月さんを助けようともしない。

これが、あの官邸記者会見の真実である。

こんな状態で民主主義?
知る権利に答えてる?
国民が大事?

本当に悪い冗談である。

安倍政権や菅官房長官が特別な悪人というわけではなく、戦後ずっと続いてきた儀式なのだ。民主党政権のときに少しだけ変化があった。それまでは、フリーのジャーナリストが記者会見に入ることすらできなかった。それでもまだこの程度だ。

本来は、この作品は成立しない。
望月さんは、欧米などのジャーナリストが「当たり前」にやってることをやってるだけなので。しかし、それが作品になってしまう。それが今の日本だ。

ジャーナリズムは民主主義の基盤だ。
マスコミが正しく機能し、権力者に阿ることなく質問をぶつけ、国民に正確な事実を伝えたり議論の種を提供してこそ、民主主義は機能する。

現在の日本社会のヒドイ状態は、民主主義が機能していない結果でもある。その大きな要因が、この作品のテーマでもあるジャーナリズムの機能不全だ。

映画観終わった後で調べたら、望月さんは私と同い年だった。
これからも健康に気を付けて、この腐ったマスコミ業界に小さな楔を打ち続けるため、頑張り続けてもらいたい。

yone