劇場公開日 2019年11月15日

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「当たり前の事も出来ない日本のジャーナリズムの現実」i 新聞記者ドキュメント HALU6700さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0当たり前の事も出来ない日本のジャーナリズムの現実

2020年9月13日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

難しい

以前に鑑賞した映画『新聞記者』が面白かったので、その映画の原案者であり、東京新聞社会部記者の望月衣塑子さんに密着したドキュメンタリー映画ということで本作品を鑑賞。

本作の監督を務めるのは、オウム真理教の本質に迫った『A』『A2』、ゴーストライター騒動の渦中にあった佐村河内守氏を題材にした『FAKE』などで知られる、森達也監督の作品。

出来る限り、自分が思想的に右とか左とか、保守とかリベラルであるとか先入観を持たずにフラットな視点で鑑賞しましたが、率直な感想と致しましては、森達也監督もこの作品の中で語っていますが、「なぜこの望月衣塑子記者を撮っているのだろう?」という疑問が、このドキュメンタリー作品のすべてを表しているかの様にも思えました。

望月さんは何もおかしなことはやっていない。
自分で取材をして事実を調査し、その上で、疑問に思ったことを首相官邸の定例記者会見の場で官房長官にぶつけているだけなのである。

それだけなのに、官邸サイドからは嫌がらせを受け、更に、望月さんのみ特別ルールを設けられて質問回数に制限を加えられてしまっているという。また、菅官房長官もまともに受け答えする気さえないようにも見える。

これが、そんな当たり前な事も出来ないのが、日本のジャーナリズムの現実なのかと、哀しくなってしまった。

望月さんの場合には、まだ東京新聞という記者クラブ内のグループに所属しているから質問も出来るのですが、記者クラブにも属していないフリーの立場の人は、あの場で質問すらさせてもらえない。更に、質問内容も事前に提出する必要があり、それに対する回答が用意してある。即ち、台本が決まっているお芝居であり茶番劇そのものなのでした。
しかも、一部を除く、その他の新聞社のジャーナリストとは呼べない職業上での記者たちは、同じ立場にある望月さんを助けようと援護射撃をしようともしない。

これが、あの首相官邸での定例記者会見の実態である。

こんな状態で民主主義国家と呼べるのか?
知る権利に応えているといえるのか?

これは安倍政権や菅官房長官が特別に悪人というわけでもなく、戦後ずっと続いてきたある種の儀式ともいえる。

本来は、この様な内容を主題にした作品は成立しないはず。
望月さんは、欧米などのジャーナリストが「当たり前」に行っていることを行動しているだけであり、それが作品になってしまう。それが今の日本なのです。

ジャーナリズムが民主主義の基盤だとすれば、マスコミが正しく機能し、為政者におもねることなく質問をぶつけ、国民に正確な事実を伝えたり、議論の種を提供してこそ、民主主義は機能するはずである。

現在の日本社会のこの酷い状態は、民主主義が機能していない結果でもある。
その最たる要因が、この作品の主題でもある<ジャーナリズムの機能不全>なのです。

既存メディアからは異端視されながらも様々な圧力にも屈せず、首相官邸の記者会見で鋭い質問を投げかけ続ける東京新聞社会部記者・望月衣塑子さんを追った本作に「i」とあくまで小文字の「一人称の私」を掲げたタイトルの意味合いをかみしめた。

尚、政府主催の『桜』を見る会問題で揺れている最中にある現在の官邸記者会見の質疑応答の中身のなさや異常な有り様を考えると、菅義偉官房長官の答弁を見聞きするだけでも、国民が小馬鹿にされているのもよくお分かり頂けるかと思います。

私的な評価と致しましては、
私は、特に、望月衣塑子記者の信奉者でも何でもない、どちらかと言うとノンポリティカルな単なる国民の一人ですが、本作を鑑賞し、望月衣塑子記者が特別視・異端視されている状況自体がおかしいのであって、当たり前の事が出来ない「ジャーナリズムの機能不全」に陥っているマスコミの有り様に風穴を開けるべく、制度的な不備の改善を図るのは難しいのかも知れないですが、望月さんには引き続きジャーナリズムが正常に機能するべく頑張って貰いたいと感じました。
現在、安倍首相が憲政史上最長の在任期間記録の更新を続けていますが、ここに来て『桜を見る会』問題などでも、反社会的勢力などの出席問題についても全く誰も責任を取る姿勢もなく、今回も、安倍首相の進退問題に発展しそうな案件は、またもや官僚達が忖度に走るという状況にありますが、もっと他の新聞社やマスコミも今回の問題には是非とも斬り込んで欲しいと思います。
ドキュメンタリー映画としては、胡散臭さも含めて、五つ星評価的には満点でも良いくらいでしたが、但しながら、沖縄県辺野古基地移設問題や伊藤詩織さん準強かん事件、あるいは森友学園問題や加計学園問題などといった密着ドキュメンタリー映画にしては、仕方がないにせよ、取材対象の事案の鮮度が古い点で、星一つ分マイナスさせて頂きまして、四つ星評価の★★★★(4.0)の評価とさせて頂きました。

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HALU