「しんちゃん…好きぃ…」映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者 わたろーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0しんちゃん…好きぃ…

2020年10月3日
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上映終了後「もう終わり?」「すごく楽しかった!」とニコニコ語る子どもたちの声が聞こえてくるなか、大人はそっとハンカチをしまうという…この光景だけで素晴らしい映画体験だったと言えます。

クレヨンしんちゃんの映画は個人的にご無沙汰でした。好きな作品はベタですが、『モーレツ!オトナ帝国の逆襲』です。あの作品の好きなところは、いわゆる"『下ネタ』『綺麗なお姉さん』系統以外のコメディーパートが面白いだけでなくストーリー後半の核心部分のメッセージに影響してくること" "アニメでしか表現できない展開(実写化するとチープになる)""子どもの無垢さが大人に説教を叩きつける形に正当性があること"でした。本作もオトナ帝国の好きな要素が盛りだくさんで最高でした。

冒頭のVR体験のシーン。絵を描いているように見えてこの世界には絵が残らないという技術を見せつつ、最後は「絵そのもの」の力を示しながら、それをたくさん納められる技術の進歩は否定しないという流れには脱帽しました。

「絵を描く」ではなく「落書き」という言葉にこだわっているのも面白かったです。『自由に落書きして良いですよ~♪』と言いながら実際には描くものや行為を強いているという描写、子どもたちの発想は二次元をも超えていくという展開、凄く面白かったです。模写することだって創造することの一部でしょう。考えを起こした時点で、そこには道徳的に反していない限り自由が生まれているはずなんですよね。エンドロールで作品中に使用された絵は保育所や小学校から集めたものだというのも良いですね。

ニセななこの結末、ブリーフの結末、良かったですねえ。ブリーフの結末のシーン、シリアスなのに笑わせにかかるクレヨンしんちゃんらしいオチの付け方でした。明太子もニセななこもブリーフも、大人から見ると意味がないというか「最初から爆弾やらミサイルやら意味のあるものを描けよ」と思ってしまうところですが、意味があるか価値があるかを決めるのは人様ではないんだよなとしみじみ。

そして、とある子どもに語らせる、大人に対しての説教。SNSでの誹謗中傷とは形が違いますが(対面で文句を言っているので)、胸に来るものがありました。そして、最終的には子どもの創造性、無垢さに大人が向き合い、子どもと一緒になって行うという、本当に教育的意義の高い展開。

相変わらず幼稚園の子どもたちの保護者は何をしてるんだろう…ってのと前半のこの世界における設定の説明が集中して見ていたつもりでしたが今一つわからないまま進んでいったのが残念。子ども向けだからなおさら「○○したら××になる」っていうのをアニメなり図解した方が良かったのかなあと思いました。ななこお姉さんと食事したらしんちゃんはこうなる…的に。

あと、勉強不足で申し訳ないのですが、『マツケンサンバ』が悪のものとして描かれているのが滑稽で面白くてしょうがなかったです。このシーン「りんごちゃん」が関わっているのですが、持ちネタなんでしょうか。子どもたちには何も伝わってないようで大人だけがクスクス来てる感じでしたが。「ファインディングドリー」の唐突な八代亜紀推しを思い出しました。

とにもかくにも、ニセななこが言っていたように「しんちゃん…好きぃ…」となる一本でした。文部科学省の学習指導要領の改訂に関わる人達には、本質はこういうことですよと見て学んで頂きたいと偉そうですが思いました。

わたろー