劇場公開日 2020年11月13日

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「一人で頑張らなくてもいい」水上のフライト おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5一人で頑張らなくてもいい

2020年11月29日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

単純

幸せ

レビュー評価が高かったので、遅ればせながら鑑賞してきました。予告から予想していたような展開で、大きなどんでん返しやひねりはなく、ものすごく感動したわけではないですが、それでも気持ちよく泣ける作品でした。

ストーリーは、オリンピックに手が届きかけていた走り高跳び選手の藤堂遥が、交通事故で下半身不随になりながらも、カヌー選手としてパラリンピック出場を目指して、再び前向きに生きようというものです。ありがちな展開ではあるものの、障害者のみならず、多くの人にとって生き方のヒントを与えてくれる作品だと感じました。

自分もかつて膝の手術を受け、車椅子生活を余儀なくされたことがあります。移動はもちろん、着替え、入浴、トイレと、日常の全てが不自由でした。誰かの助けがないとできないことも多かったのですが、簡単に誰かを頼ってはいけない気がして、助けを求めることをためらっていました。車椅子生活の時でさえそうだったので、健常な今ならなおさらです。でも、人は気づかないだけで、実はいつだって多くの人に支えられています。一人で生きているわけじゃないし、一人で頑張らなくていい、できないことは助けてもらえばいい、本作を通してそんなことを教えられた気がします。以前に観た「こんな夜更けにバナナかよ」を思い出しました。助けられること、支えられることは、恥ずかしいことでも特別なことでもない。そんなことを改めて感じました。

主演の中条あやみさんは、テレビドラマで見る演技には物足りなさを感じていましたが、なかなかどうして本作ではイイ演技を見せてくれました。事故のために夢破れ、周囲の気遣いも励ましもすべてを拒絶し、絶望のどん底にいた遥が、新たな生きがいを見つけて前へ踏み出そうとする、そのときの表情の変化が実によかったです。そこからのカヌーの練習場面も、遥のストイックな一面がプラスに働く、いい場面でした。自分も、一度だけカヌーに乗ったことがあり、うまく漕げるようになって調子に乗ってスピードを上げた途端、見事にひっくり返って湖に投げ出されました。観光地の体験カヌーでもこのザマなのに、競技用カヌーはさらに難易度が高いことでしょう。それを操る中条あやみさんが素敵でした。相当練習したのではないかと思います。

脇を固める、母役の大塚寧々さん、仲間の杉野遥亮くんも、遥をしっかり支える感じの演技がよかったです。中でもひときわ存在感を放っていたのが、コーチ役の小澤征悦さん。演技というより、彼自身の人柄が滲み出るような、明るく前向きに遥を導く感じがとてもよかったです。彼のおかげで、常に先に光が見えるような展開になり、作品の印象を底上げしているように感じました。

おじゃる