劇場公開日 2020年4月10日

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「68分なのに120分ぐらいの見応え」ワンダーウォール 劇場版 mayuoct14さんの映画レビュー(感想・評価)

5.068分なのに120分ぐらいの見応え

2022年8月5日
iPhoneアプリから投稿

大ファンの脚本家、渡辺あやさんの作品なのにテレビドラマ版を見そびれてしまっていたので、劇場版は必ず、と心に決めて見に行きました。
この度2022/7/23は二度目の鑑賞でしたが、68分という短い上映時間の中に詰まった「素晴らしく濃くて深いメッセージ」と「非常に高いレベルの映像音楽表現」を一人でも興味ある方に見て頂きたいと思って紹介します。

この映画は、築100年近くになる大学寮の存続か建替えかの攻防を描く物語ですが、その中に「寮で生活する学生たちの、独特のキャラクターとそこに基づく自治や文化」を鮮やかに、自由に、生き生きと、でも迷いある青き春としての描写が包含されています。

物語を通じて、映画は問いかけます。
長く学生と営みを続け、そして時代とともに在り続けた寮の存在は、「経済至上主義が社会の幸福にとって一番に必要なのか」「私たちが幸せになるためには、この寮で受け継がれていることこそが本当は必要なのではないか」ということを。
この問いは、まさにこの数十年の間に私たちが忘れ去ろうとしている『大切にしなければいけないこと』を思い出させ、映画のメッセージとなって心のなかに降りてきます。

特に、最近の「生産性や効率重視の考え方」や「弱者を切り捨て排除する」、多様性とは嘘ばかりの、世の中の動きに嫌悪感を覚える自分の感覚とこれほどシンクロした映画は久しぶりでした。
脚本を書いたあやさんも「権力側の人が知らないうちにどんどん社会を変えて行こうとする恐ろしさを感じる」と言っています。私も本当にそう思います。

昭和の青春時代を思い出し、あの頃の、今よりも自由闊達な空気を取り戻したいと思いませんか。
若い人なら、そういう時代の空気に触れてみたいと思いませんか。
それは空しい理想かもしれない。でも、理想を追うことは人間のとても大切な在り方というか価値というか、そういうことだと思うのです。

現在はAmazonプライムで見放題メニューで上がっていますので、会員の方はいつでも見れます。
渡辺あやさんの、絶妙な距離感と対話で描かれる素敵な世界(私はこの世界観が本当に大好きなのですが)を体験し、この先の未来をちょっと立ち止まって考えてみませんか。

個人的に、映画を見ていろいろ考えることが好きです。名古屋で「映画サロン」に参加するようになってこの作業は一層濃密なものになっています。これからもエンタメを通じて刺激を受け、考え続けたいと思います。

mayuoct14