劇場公開日 2019年9月27日

  • 予告編を見る

「ローイングエルゴメーター」サラブレッド ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ローイングエルゴメーター

2019年10月3日
iPhoneアプリから投稿

二階から聞こえて来るローイングエルゴメーターの音は、水中で色々な音が混じって聴こえてくる、くぐもった感じと同じだ。

アマンダも、リリーも、母親も、継父も、この音と一緒で一体何を考えてるのか、ハッキリしたことは分からない。

リリーが課題をコピペでやり過ごそうとしたように、もともと向上心もビジョンも何もないのだ。

唯一行動パターンが読めそうなのはティムだけだが、底辺で生きてて大言壮語を吐く…そう、ありそうなキャラクター設定で、実は最も人間らしくさえある。
しかし、アマンダもリリーも逆にティムの行動をコントロール出来ず、どこか皮肉だ。

そして、くぐもった感じの音と同じで、映画のストーリーにも予想を寄せ付けない気持ち悪さ残る。
エンディングもそうだ。

人間性のカケラが云々というより、単に行き当たりばったりで、プロコンも何もない。
アマンダがプロローグで、リリーにプロコンが重要だと言っていたが、この二人にこそプロコンがないのだ。

ただ、ふと見回すと、これほどではないにしても、こんな人間は結構いるように思う。
行き当たりばったりで、感情表現に抑揚もなく、自分本位で周囲に対し節度も何もない、ちょっと近寄るのはよしとこうと思うようなやつ。

リリーの衝動を知っても受け入れようとするアマンダ。
プロコンなんて受け売りに過ぎなかったのか。

睡眠薬でイビキをかいて熟睡するソファのアマンダの腕を巻き付け、膝枕で横になって寄り添おうとするリリー。
これに何の意味があるのか。
罪を贖う気持ちが少しでもあるのか。

アマンダの近況を尋ねられ、喜怒哀楽のない、感情をあらわにすることのない表情で、淡々と手紙の内容を説明するリリー。

リリーの語り口調や能面のようや表情を前にして、怯えたような顔をするティムが印象的だ。

そして、何かくぐもった心の声が僕達の中で、いや、僕達の世界の中で行き場を失い、外に出ようとしてるのではないかと、ゾッとする作品だった。

ワンコ