劇場公開日 2019年9月6日

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「輪郭線を捨てて描かれた冒険物語」ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0輪郭線を捨てて描かれた冒険物語

2019年9月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

少し前のフランスのアニメ作品だが、ようやく日本語版が見れるようになった。
原題は、北極点という意味で「地球のてっぺん」。
ストーリーは1880年代前半だが、史実では、人類が北極点付近に到達できたのは、20世紀に入ってしばらく経ってかららしい。
ロシア貴族の若い女性サーシャが、北極点を目指して消息を絶った探検家の祖父の“名誉”と、失われた砕氷船を取り戻すために、「長い旅路」へ向かう・・・。

アートの面では、自分はパッと観て、1920~30年代の商業ポスターを思ったが、1940年代の鉄道会社のポスターからインスパイアされたそうだ。
輪郭線をあまり描かず(描いても黒い線は使われない)、かつ、版画のようにベタ塗りの色面で構成していく。(最初は線で起こすとしても、線画の線を最後に抜くという発想法では、こういう絵柄は作れないと思う。)
その代わり、2次元的な陰影は一つ一つ丁寧に付けており、光と影のコントラストは美しい。
原色はほとんど使われず、パステル的な少し濁った中間色が使われているが、北方の風景を描くのには効果的だ。

「シンプルな画風」とか「ミニマム」などと、ちらしに書かれているが、自分はそうは思わなかった。映像表現だけとっても、必要十分なクオリティをもち、予算不足や表現不足など一切感じない。
輪郭線を捨てたことで、豊かな表情やキレのある動作といった、マンガ的な表現は制限される。しかしその代わりに、フレーム一つ一つが、そのまま版画やポスター画であるような世界が実現している。
そもそも、“おとぎ話”には写実性は必要とされない。「髪の毛1本1本」が描かれなくても、「風に合わせてなびく髪」であれば良い。
また、音響表現がイケており、絵の写実性の不足を補っている。流氷のきしむ音や割れる音には、息をのむ。

ストーリーは、見かけによらず、フランス映画らしからぬ(?)ほど、かなりご都合主義だし、ハリウッド的でもある。
正直、「ありえない・・・」なのだが、スッキリとまとめ上げていることも事実で、“おとぎ話”と割り切った方が良さそうだ。
主人公のサーシャの絵柄は“カワイイ”が、声は低くハスキーで、“しぶとい”キャラに合っている。
大きなスクリーンと、素晴らしい音響で観ると、より楽しめる映画だと思う。

Imperator
かせさんさんのコメント
2023年8月26日

気位が高く、それでいて人の話を素直に聞けるいいキャラでした。

かせさん