劇場公開日 2022年2月11日

「スピルバーグも凡作を作ることはある」ウエスト・サイド・ストーリー 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

1.5スピルバーグも凡作を作ることはある

2022年2月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 チンピラのクズ同士が争っているように見える映画だ。そして実際にその通りである。クズのクズたる所以は、自分で考えないことにある。その上、無意味に高いプライドがある。だから反省がなく、うまくいかないのは全部他人のせいだという思考回路になる。
 本作品は、クズたちが、社会に蔓延している民族その他の対立という固定的なパラダイムに乗じて、仲間内での地位向上や鬱憤ばらしをする物語で、その精神性は暴走族となんら変わらない。

 ナタリー・ウッドが主演した作品が上映された1961年当時は、多くの問題をロミオとジュリエットに似せたストーリーでミュージカル映画にしたことで高い評価を得られたが、それは当時のアメリカ社会の問題意識があまり進んでいなかったためだと思う。だから作品が問題を明示したことの衝撃は大きかった。当時の人々は暴力に対する耐性があり、銃に対する馴染みがなかったことも、作品が受け入れられた下地となっていた。

 映画には旬があるものとそうでないものがある。言い方を変えれば、時代が移ると色褪せるものと色褪せないものがある。いまは価値観が相対化されたり、新しい価値観が創造されたりする時代である。普遍的な問題に深く斬り込んだ作品だけが100年後も生き残る。残念ながら本作品は生き残る作品でも、旬の作品でもなかったようだ。
 主演の女の子の歌は抜群に上手い。バーンスタインの音楽はいま聞いても新鮮である。しかしそれ以外はひたすら退屈であった。天下のスピルバーグといえども、凡作を作ることはあるのだ。

耶馬英彦