劇場公開日 2022年2月11日

「リメイク映画の障害は○○な映画ファンのせい」ウエスト・サイド・ストーリー シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0リメイク映画の障害は○○な映画ファンのせい

2022年2月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

今回は作品の感想よりも映画のリメイクについて色々書いて行きます。

で、上記タイトルの○○の中身は“歳より”でも“マニアック”でも“こだわり派”“頑固”“頭の固い”でも何を入れて貰ってもかまいません。要するに元ネタを知らない人はリメイク作品を嫌がったり反対することはまずありませんから、反対する人はその映画に何らかの思い入れがある人だけということです。
そしてリメイクに対して(特に映画ファンは)過敏に反応するし反対派が多くなる傾向にあり、逆にテレビドラマやゲームなどは歓迎される傾向にあります。昔の歌のカバーなども嫌がる人はそれ程いませんし、特に映画ついては何故リメイクし難く、嫌がる人が多いのか、ちょっと考えて行きたいと思います。

まず、テレビドラマやゲームや軽音楽などの主なユーザーはほぼ若者なので、名作などと言われてもテレビドラマなら今の時代で今の人気俳優で観てみたいという要望の方が多いでしょう。
ゲームなら最新技術のクオリティで見てみたいしプレイしたいと思うのは自然だし、歌などはオリジナルを歌っていた人はもう高齢であったり亡くなっていたりしているので、今人気の歌手のカバーで十分楽しむ事が出来るでしょう。

では映画はどうなのかということですが、映画の客層は老若男女わりとバランスよく存在し、旧作も年配の娯楽という訳でもなく、ソフトがちゃんと残っていて若い人達にも観やすい環境にあり、古い名作でも若いファンも最初からそれを観る事が可能であるということ。
で、これは映画に限らずですが、特に感受性の鋭い10代20代の頃に鑑賞し影響を受けた作品については死ぬまで記憶に残り、自分の宝石の様な存在になってしまうということ。
本来ならどんな分野に於いても10年単位で技術は大きく変化し、20年単位で客層は入れ替わり、20年毎に名作がリメイクされても全く問題ない筈なのですが、映画業界に於いてはそれは殆どないのが実情です。なので、本作は映画界ではまさに奇跡の様な出来事なのですよね。

いや厳密に言うと映画業界でもリメイク作品は数多く存在しているのですが、リメイクし易いタイプとし難いタイプの作品があり、全般的にリメイク作品の成功率が低いので、余計に危惧されがちなのだと思います。
その辺りをもう少し分類していくと、まずリメイクされやすいのは大半が娯楽作品で、アート系の作品や作家性の強い作品、映画賞を取ったような作品、巨匠の作品などは殆どリメイク対象外の様な気がします。それは、観客のニーズもオリジナル超える可能性も非常に低く、リスクも高いので敬遠されがちなのだと思います。
更に大スター映画の名作も敬遠されがちです。時代が変わってもオリジナルを先に観て、作品にもスターにも魅了されたり印象が強すぎる場合、まさにその作品が唯一無二の作品となってしまいます。
例えばオードリー・ヘップバーンでない『ローマの休日』、ビビアン・リーでない『風と共に去りぬ』、ピーター・オトゥールでない『アラビアのロレンス』、マーロン・ブランドでない『ゴッドファーザー』などを想像してみて下さい。あり得ないと思うのが普通でしょうからね。
それを観ていない人、そのスターの存在すら知らない若者には、私等年配の映画ファンはまずとりあえず観ろって勧めてしまいますしね(苦笑)
逆にリメイクしやすい場合をもう少し分類すると、例えばサイレン映画からトーキー映画の様に映画の技術や表現方法自体が変わったとか、外国映画のヒット作を自国に変換するとか、アニメを実写化(その逆も可)するなどが、今の映画界の一般的なリメイクだと思いますが、(こういう場合、観客側は期待こそすれ文句は殆ど出ませんが)しかし大ヒットしたケースは非常に稀な様な気がします。

と、長々と映画のリメイクについて書き綴りましたが、事程左様にリメイクには高い壁が立ちはだかっており、今回の『ウエスト・サイド・ストーリー』のリメイクって、そういう意味で事件であり、想像するだけでも凄い冒険だったことでしょう。
しかし(もう成功と言ってしまいますが)私が本作を観て、いつも思っている「映画は絶えず進化し続けている」ということを確信したし、本来はこういう冒険をもっともっとやるべきだとも思ってしまいました。

しかし、今回のリメイクもかなり計算があってこその成功だったと思います。
まずはミュージカル作品を選んだこと。本来ブロードウェイミュージカルという舞台版がオリジナルであり、映画版以前から知る人は知る作品であり、舞台というものは公演毎に役者や演出家が違うのは普通であり、旧映画版も決して上記した様な大スター映画ではなかった事が本作の大きな勝因だったと思います。
前作と違うと言われても本来舞台ってある脚本に対して、その時々の演出や役者の違いを楽しむという文化がある程度浸透しているし、70年以上前の作品を現在社会に対してどのように適応させるのかの興味も湧かせてくれました。
更に監督が現代映画の巨匠と呼んでもよいスピルバーグであり、彼のフィルモグラフィーを要約すると、リメイクという形でなくとも古典作品を現在の表現方法で楽しませる為の作家活動であり続けていたので、ある意味本作はそれを本人の口から宣言された様な気がして、彼の本領が最大限に発揮された作品となり、新たな若い『ウエスト・サイド・ストーリー』ファンを獲得出来たことは大きな功績だと思います。

だけど、これが映画界では大冒険であることに違いはなく、もし私が一番好きな『サウンド・オブ・ミュージック』をリメイクすると聞いたなら、やはり拒絶してしまうのかも知れません(苦笑)

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シューテツ