劇場公開日 2020年7月3日

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「直撃世代ではないのですが…」カセットテープ・ダイアリーズ キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5直撃世代ではないのですが…

2020年7月6日
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(最後に少しだけラストシーンのネタバレありますのでご注意下さい…)

世界中で(アメリカでさえ)「『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』はアメリカ礼賛の曲だ」と誤認されていることはなんとなく知っていたが、正直なところ私は作品中、ブルース・スプリングスティーンのネクストジェネレーションとして流れていたペットショップボーイズやバナナラマ、ティファニー、a-haといったアーティストにどっぷりハマっていた世代。

もちろん当時もヒット曲を出していたのは知っているが、ファンが敬意を込めて呼ぶ「BOSS」の楽曲に私はあまり馴染みがない。

ちゃんと予習しないで観賞してしまったので、これだけ彼の曲(歌詞)が重要な要素として作中で繰り返し使われていると、さすがに「見知らぬアーティストのライブに飛び込んでしまった様な疎外感」や、歌詞を畳み掛ける「ゴリ押し感」を感じなくもない。

と言って、決してファンムービーでもなく、物語とリンクする重要な歌詞はちゃんと文字と合わせて「メッセージ」として描写されている。

作中では、「BOSS」の歌詞の世界に心酔する主人公に対して、不況のイギリスで差別されながらももがき苦しんでいたイスラム教徒達の生活も描かれ、「自分の才能を活かして外へ飛び出したい。夢を叶えたい。」と小さな反抗を続ける主人公の行動が、『青春時代』という単純なお題目で正当化されていいのか…最後の方まで違和感があった。

しかし作品のラスト。
主人公が、家族や友人の支えがあってこそ今の自分があることをあらためて知り、皆の前でそれを懺悔。晴れて大学への旅立ちに際し、父親に車のキーを渡され、自らそのハンドルを握る。
この前までは飛び乗ってもエンジンさえかからなかった車で、今度は(過去の自分に見送られながら)自らの意志で人生の船出をする美しいシーンへと導かれていく。

そういう意味では最後にちゃんとメッセージとして回収されるものの、この主人公の改心への展開がかなり急に感じてしまったのはちょっと個人的には減点要素になってしまった。

【蛇足】
もちろん「一人のアーティストに出会って新たな人生を踏み出した男」の話としては美しいのだが、この人が何か世界的な何かを成し遂げたという訳ではないようなので、エンドロールで、実在するこの主人公が「彼はその後○○○回もコンサートに通った」というキャプションでブルース・スプリングスティーンと撮ったツーショット写真(この写真がまた…)が出てくると、日本でいう尾崎豊や浜田省吾にスタイルから思想その他強く影響された(それこそ浜田省吾自身はBOSSに影響された人なんだろうけど…)、良くも悪くも詰まるところ『ただの熱烈なファンの話』という多少安っぽいイメージで終わってしまった…という印象なのは、言うだけ野暮というものなんだろうな。

キレンジャー