劇場公開日 2020年2月21日

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「マリックが何故今、この作品を撮ったのか?」名もなき生涯 ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0マリックが何故今、この作品を撮ったのか?

2020年10月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

私の好きなテレンス・マリックが帰ってきた!!まずはそのことを歓迎したい。寡作な映画作家と知られる大巨匠であるが、比較的コンスタントに作品を発表した過去10年間の作品を振り返ると、いずれも物語の焦点をあえて絞らないようにしたように思えるものばかりである。

『天国の日々』でこの監督の虜になった私から見れば、どこか浮世離れした主人公が見据えるある焦点に向かって、語られるこの監督独特のストーリーテリングが好きなのだ。それを思うと、本作は従来のテレンス・マリック作品の物語構成にバッチリとはまり、物語が描く過酷な現実とあまりにも美しい映像とのコントラストにため息をつくばかりだ。

しかし、マリックが何故今、この作品を撮ったのか?という疑問が始終頭の中を駆け巡る。しばし神の存在を肯定し、あるいは否定し、マリックは有神論者なのか、無神論者なのか、とファンの間でも物議を醸す彼の作風は今作でも健在であるし、見方によっては本作の主人公・フランツの行いはキリストの受難とも重なって映る。だが、本作の時代背景はナチスが統治する1943年のオーストリア。誰もがヒトラーに忠誠を誓い、命を捧げることが当然な世の中に対し、自分の意志を貫き続ける主人公の姿は、同調圧力が至る所に存在する現代社会にも通ずるテーマに見えてくる。

多様性を謳いながらも、人種差別、ヘイトスピーチ、マイノリティの排除、国による言論統制など矛盾を孕む現代には、本作の世界とも通ずる何かが生きている。言わずもがな、マリックは寡黙だ。フランツもその家族も皆、声を高らかに自分の主張を叫んだりしない。ただ、周囲の圧力に屈しないように、自分の殻を守り、蓋をする。マリックはフランツに自身を投影したのだろか。少数派の声を大にして歴史に名を刻んだ偉人たちも多いが、マリックは誰も知らないような人にスポットを当てる。それは『名もなき生涯』というタイトルが示す以上でも以下でもない。しかし、そのような人物たちが確かに存在したということを描いたことこそが本作の最大の意義である。

Ao-aO