劇場公開日 2019年8月30日

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「虚構と現実の狭間」トールキン 旅のはじまり しずるさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5虚構と現実の狭間

2019年9月11日
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悲しい

楽しい

ファンタジー好きとして、トールキンと聞けば、振り返って「何々、何の話?」と反応せざるを得ない。
本作もタイトルだけでチェックしていたが、上映館がずれていたのか、予告編も見掛けず、「作家トールキンの話」との予備知識のみ。
特に映画に於いては、私は『伝記物』に正確性を求めていない。別人が語り別人が演じている時点で、既に立派なフィクションでしょう。見る側が話半分の心得でいればいい。だから、ここで語られたトールキンは、『かも知れない』トールキンのひとつとして楽しめればいいや、という程度のスタンス。

物語には、投影、疑似体験、学習、感情誘起、様々な作用要素がある。現実でままならなかったり、欠けている部分を、物語が補い、支える事があると思っている。そのバランスは片寄りすぎては危ういけれど、人にとって、少なくとも私には、物語は生きていくのに不可欠な存在だ。
だからこそ、現実が物語を生み、物語が現実に寄り添う表現を見た時、強く惹き付けられ、自身も救われるような気がする。『ネバーランド』や『恋に落ちたシェイクスピア』『ビッグフィッシュ』などがそうだった。
トールキンの中には、現実を映す水面のような、もうひとつの確固たる世界があった。時にそれが彼の孤独や苦難を救った。
戦死した息子の詩集出版を渋る母親にトールキンは言う。「何の役にたつのかと仰いましたね。こんな時代だからこそ必要なのです」腹が膨れても心が養われなければ、人は立ち上がれない。

イギリス物好きの私にとっては、単純に目の保養でもあった。
学校で友情を育み戯れあう少年達。立場も性格も絶妙なバランスで個性付けされている。この学友もの部分だけで二時間位見たい。
制服、学舎、図書館、芝生、お茶会、パブ、偏屈な老教授。お腹いっぱいですありがとう。
戦争描写にも迫力がある。『天国でまた会おう』でも悲惨さに息を飲んだ、同じ時代地域での出来事。紙一重で生き延びた彼らのような人々も、心や体に深い傷を負った。重ねて語られた事実に胸が痛む。

多分原文では洒落だったり文学的だったりする台詞なんだろう。日本語字幕の言い回しが解り辛い部分が何度かあった。英語に堪能だったら、もっとニュアンスが理解できて面白かったかな。

友情、恋愛、戦争と、人間ドラマとしての展開はありきたりでもある。どれも解りやすくステレオタイプな描き方なので、焦点がどっち付かずの印象もある。幼少時から青年期への回想と、戦場での現在が代わる代わる語られる構成のテンポの悪さや、エピソードの些事のザックリ具合など、気になる部分もちょいちょいある。
が、私にとっては好きな物マシマシの好物具合。色々楽しませてもらったしいいよいいよと、点も甘くなろうというものです。

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しずる