劇場公開日 2019年11月29日

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「ピリッとしたリアリティが効いた傑作」幸福路のチー ipxqiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ピリッとしたリアリティが効いた傑作

2021年7月10日
iPhoneアプリから投稿

内容をよく知らないまま、タイトルからほんわか系かなーと思いながらNetflixをぼんやり再生、トップシーンが終わる頃には真顔になっていた。

「トトロ」の導入のような引越しシーンかと思いきや、主人公が小舟を流す用水路には都会らしいゴミ、そのうえどうもその場面自体が過去の記憶のようだ。
つまり絵や背景はほんわかタッチだが、背後にはリアルな個人史があるらしい。
これは単なる雰囲気ハートウォーミング作品じゃないぞ…! と正座した。

寡聞にして詳細はわからないのだが、1人の台湾人女性の生い立ちと、台湾現代史の激動とが絡みあい、やがて私でもよく知っている近年のニュースへと繋がってくる。そこに主人公たちの確かな実在感を感じる。

社会的背景をコンパクトにうまく取り込みながら、現在と回想を明確にわけるのではなく、ひとつの場面の中でシームレスに展開していく。これはアニメならでは強みだと思う。

にしても語りがうまい。下手するとのんべんだらりとしてしまいかねないところを、流れるように話をつなげて飽きさせない。
この脚本(絵コンテ?)を書いた監督はかなりのストーリーテリング強者とみた。
こういう帰省ものってよくあるけど、観客を楽しませるとい意味で難易度は高いと思う。
そこもリアリティが効果的に奏功してるおかげかな。

日本でいうならさくらももこのエッセイをちびまる子ちゃんのタッチで描いたら、みたいな感じかな。祖父が亡くなった時の笑えないエピソードもあのかわいい絵柄でちゃんとやる、みたいな。
親世代と子世代の溝や葛藤がちゃんと描かれているので、台湾に詳しくない私でも我がことのようにヒリヒリする場面もあった。
「野蛮」ていうキーワードは新鮮だけど、感覚的にはすごくしっくりくる。親や上の世代がとても乱暴に見える時期ってあるんですよねー。それを変に逃げたりごまかしたりしてないのが素晴らしい。

身近なところにあるさまざまな無神経さ、断絶がちゃんと描かれているから、オチが単なるおためごかしに見えないのかな。
アニメタイトルの多い日本でも、ここまで社会が反映された作品はレアだから、この作品が評価されたことは今後の日本アニメにとっても朗報だと思う。高畑勲とか、原恵一が手がけるようなライン。
せっかく山ほどタイトルがあるなら、こういう路線が多少あってもいいのにと思うし、むしろ海外に持っていった方が歓迎されるのかも知れないなあとも思う。君の名は、や鬼滅の数百億は望めないまでも、それだってめったにない幸運なまぐれだと思うし。。

私にもわかるアニソンの引用は意外だったけど、使い方が上手で嫌味がない。うれしいサプライズ。

ipxqi