劇場公開日 2019年11月1日

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「重い。でも、希望がある。」閉鎖病棟 それぞれの朝 xmasrose3105さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0重い。でも、希望がある。

2020年9月5日
iPhoneアプリから投稿

重く辛くなるようなエピソードが続きます。
役者さんがみな素晴らしかった。
小松菜奈さんの慟哭。
胸を打たれました。
無表情にも表情がある。すごい役者さんだ。

人が精神のバランスを崩すのは、弱いからじゃない。
むしろ人としてのまともな感性があるからではないか。そんなことを感じさせてくれる映画。

「普通の人」?の方がよっぽど狂ってる。良心の呵責もなく、人の存在を踏みつける人たち。
家族も安心できる居場所にならない。お互い助け合うどころか、家族が家族を邪魔者扱いし、時には利用する。自分の欲得を優先したら、これほど残酷でおぞましい場になるところはない。のうのうと動物の部分むき出しで生きている。人間の自覚すらなく。

くやしい。でも誰にも言えない気持ちを、全く思いがけない誰かがわかってくれていた。自分の知らないところで。想像もしないかたちで、救われることがあるんですね。
ただ、そこに至るまでには、相当の試練が...

ひどい奴らが何人も出てきます。クズをクズと呼べたらどれだけよいか。でも言えない。お前が悪い、ともっと傷つけられる。観ていて私も心の中で慟哭しました。
正当な怒りを相手に思い切りぶつけてやりたい。でもそれをしたら、自分も動物むき出しになっていく。究極は命を仕留めるところまで。自分もクズになっていく。最後の砦、人間としての自分を、失いたくない。本当にギリギリのところで必死で葛藤している、無表情の下で。

闇に気付きながらも抜け出せない時、優しい人は病むしかないでしょう。

でも世間には少なからず、本人の弱さのせいで病むと思っている人がいる。繊細さを、可哀想なことのように扱う世間の勘違い。これが偏見となり、弱味を見せたら、どんな目にあうかわからない世の中になる。虚勢のはりあいで、家族や社会から優しさがなくなっていくとしたら。
それこそ人類全体の危機だ。

法や社会の枠組みは人間が決めていくことで、大体は歩みが遅く、一番後からついてくる。管理の視点から見れば、閉鎖病棟にいる彼らは枠からはみ出した人たちだろう。

でもはみ出さざるを得ない理由。
そこに大事な何かがある。

繊細というのは言い換えれば、感じるセンサーが、より際立っているということ。繊細さはむしろ優れた特長と私は思う。センサーが気付いてしまうから、それ故はみ出してしまう。
でもそれは私たちが気付くべき警告のような気がしてならない。人間の闇はお前の身近にもあるよ、という。

でも今、世の中は繊細で優しい人を潰していっている。言葉の暴力、支配と差別。無関心。気付いても傍観者にまわって何もしない、関わらない。我が身可愛さで。

はみ出した大事な理由に、辛抱強く耳を傾けてくれる人はいない。死にたいほど孤独。
だけど、実は自分だけじゃない、あの人もこの人もそれぞれに葛藤し、傷つき、孤独を生きているんだ、と気付いた時。隣りを歩く人たちの顔が見えてくる。何かが動きはじめます。

でもまた試練。一筋縄ではいかない。
もうボロボロですよ。

でも、何かが変わる。
世間的には病んでて弱いはずの人が。
よっぽど強い。

どうして、そうなれたか。
それをこの映画は伝えていました。

ボロボロだけれど、美しい。って言葉にすると陳腐に。やはり語るより、観て感じる映画です。シンプルな筋書きですが、温かく、こんな時代に一筋の希望を感じさせてくれる作品でした。

xmasrose3105