劇場公開日 2019年11月1日

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「生きてきたこと、生きていくこと」閉鎖病棟 それぞれの朝 ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0生きてきたこと、生きていくこと

2019年11月2日
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この映画は、生きてきたこと、生きていくことにフォーカスした物語なのだと思う。
再生とはちょっと違う、生きてきたからこそ、踏み出して、これからも生きていくのだというストーリーだ。

たとえ抑圧されていようが、
孤独だろうが、
閉鎖された場所であろうが、
心を閉ざしていた時期があろうが、
死を隣に感じながらであろうが、
確実にずっと「生きてきた」し、これからも「生きていく」ということ。

ただ、僕は原作を読んでいたので、期待していた分、やはり原作には追いつかなかったという感じが否めなくて、正直残念なところがありました。

もし、可能なら原作をトライしてみて欲しいです。

興味を持ってもらえるように、少し、紹介します。

クライマックスは、映画と同じ、事件から裁判。
でも、クライマックスは、最後のほんの少しで、登場人物のそれぞれの物語が大切に綴られます。
これは、精神科医でもある作者の、患者との向き合い方が、色濃く出ているところで、物語全体に重みも与えています。

そして、裁判の前段で、秀丸とチューさんの手紙のやり取りがあります。
チューさんの秀丸に宛てた返信に、「僕は元気です。昔と同じように生きています」という一文があって、ここからエンディングまで、僕は涙が止まらなくなりました。
スタバで辛うじて咽ぶのは止めていましたが、本を読み終わるまで涙は止まりませんでした。
なぜか。

チューさんは、もはや<昔と同じように>生きているのでないこと、そして、これから踏み出すのだと感じ、さらに踏み出すまでにも必死に生きてきたからこそ、これからも生きていくのだと強く感じたからでした。

由紀も同じ。
看護師になれたら、あの病院で働きたいという想いも告げます。

そして、二人で秀丸が自死などせぬよう説得しようと誓い合います。

映画に戻ります。
支えられ、支える。
決して孤独ではないこと。
生きるとは何もよりも大切であること。
生きてきたからこそ、生きていけるのだということ。

知的障害者の施設を襲撃した事件もありました。
しかし、皆、生きていたのです。

ワンコ