劇場公開日 2019年10月11日

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「底知れぬ怖さを感じる」ボーダー 二つの世界 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0底知れぬ怖さを感じる

2019年11月13日
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鑑賞方法:映画館

 本作品の「ボーダー」という言葉には複数の意味合いがあると思う。ひとつは文字通りの国境という意味で、主人公は税関職員の仕事をしている。もうひとつは隠された意味合いで、主人公は実は二つの世界の狭間に存在している。
 人間にとって言語を理解し使うことは、人間としての尊厳を確立するための最重要な条件である。他人の言葉を理解せず、言葉による表現もできない人間は、場合によっては人間扱いされない。逆に見た目が完全に犬であっても、言葉を話し理解すればその人格が認められる場合がある。携帯電話の某キャリアのCMがいい例だ。
 本作品の主人公ティーナは怪異な見た目ではあるが特別な能力があることで税官吏になれた訳だが、少なくとも言語を理解するから人間扱いされているのであって、もし言葉ができなかったら警察犬並みの扱いであっただろうと考えられる。

 何も説明せずストーリーの上で徐々に真相を明らかにしていく手法は見事で、ミステリーとしては上出来の作品だと思う。ジョン・カーペンター監督の「ゼイリブ」という映画を思い出した。日常的で当たり前に見える光景も、ひとたび仮面を剥がせばその下には異形の存在が隠されているかもしれない。
 映画を観ている間はそれほどに感じなかったが、終わっていろいろ思い返すと、この作品には底しれぬ怖さを感じる。大音響と映像で驚かせるハリウッドのホラー映画とはまったく違った、本物の怖さというか、現実にあってもおかしくない怖さである。結末も真相もすべて観たにもかかわらず、思い出すと怖くなる作品は滅多にない。もしかしたら大変な傑作ではないかという気がする。

耶馬英彦