劇場公開日 2019年10月11日

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「境目の匂い」ボーダー 二つの世界 ukigumo3000さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0境目の匂い

2019年10月14日
iPhoneアプリから投稿

思いがけず具体的で正直な映画だったので、こちらも真剣にならざるをえなかったが、結果的にその価値はある作品だった。

問われたのは結局、観る側のセンスのボーダーだったように思う。
本作に限らず、世界では同種を存続させるために自我がゆき過ぎ、異質なものをいじったり力づくで排除しようとする行為がくりかえされるが、毎回どうしたってムリがある。やっぱり歩み寄って認め合えた方が気持ちがいい。そのためにはどこかで過去の歴史の呪縛も乗り越えなければならないだろうが、とにかくいつだってマジョリティのすぐ隣にマイノリティが存在し続けることは変わらない。そしてその中間もあれば、自分の立場が途中で変わることだってありえる。
自分とちがう生き物、見た目、意見。これらが自分自身の存在を脅かす敵とすぐ判断するのは、自分にとっても危ういことだ。

そんなことを考えつつも、映画は容赦なくこちらのセンスのボーダーを試す。目の前には、私の常識、美観、それこそ五感のすべてからはみ出したもので埋め尽くされる。沸きあがる不快感は、たしかに嫌悪へ変わるだろう。(そしてヴォーレの姿にAphex Twinがチラつく。)
なるほど嫌悪感とは、理解を超えた未知への自然な防御反応で、それ自体は責められない。しかしその矛先が実は、単に他者の生きる姿でしかないことが難しかった。私のこの一方的な感情の判断が、彼らが人目を忍んで生きなければならない理由にはならなかった。最大にして乗り越えるべきボーダーは、やはり各個人のなかにある。

それでも。彼らが長い寂しさから解き放たれ自由に馳ける姿はどこか懐かしく、荒々しいが羨ましい、つまるところ私にとって新しい美しさだった。モデルのようなスタイルもいいが、野性味ある素直な裸体も妙に落ち着く。
そんな新たな感覚を認める前に、自分を守って相手をバカにしていないか。
勝手に覗いた他人のセックスを笑ったりしていないか。
この瞬間までの自分を疑うとき、価値観とは強固にするのではなく、より柔軟に広げたり更新されるべきものだと知った。
私自身がひとつのボーダーから開放された瞬間だった。

ukigumo3000