劇場公開日 2019年10月11日

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「オリジナルとは一味違う快作」最高の人生の見つけ方 keithKHさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0オリジナルとは一味違う快作

2019年11月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

周知のように、ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンという名優二人の共演で2007年に制作された同名タイトルの感動の名作をリメイクした本作は、男二人を女二人に置き換え日本風にアレンジされた快作です。
何より、京都が、この女二人の道行の重要な訪問地として描かれています。鴨川堤、八坂通、化野念仏寺、常寂光寺、高台寺、からふねや珈琲店・・・
ただオリジナルが、両雄の動と静の演技対決での迫真性と滑稽味が感動を呼び起こしたのに対し、本作はモーガン・フリーマンに擬えた、吉永小百合演じる市井の主婦の視点で描かれており、庶民感覚での"死”の受け留めと終活の有り様が、吹っ切れた感と後ろ髪引かれ感が交錯しつつ、沁み沁みとジワジワと重く押し寄せてきます。ジャック・ニコルソンに擬えた天海祐希は、その悲喜劇を増幅するための触媒役を鮮やかに小気味良くこなしたと思います。
映画に求められる三要素、“笑い”“泣き”“(手に汗)握る”が全て鏤められた、映画らしい持ち味を堪能し、満足感に浸れる作品です。

オープニング冒頭のロケット打ち上げのシーンに続く、スーパーマーケット店内の俯瞰ショットのパン回しから吉永小百合の寄せに迫るやや長回しによるカットは、実に見事なエスタブリッシングショットです。映画の中の彼女の役回りを、台詞なしで画像だけで見事に表現しています。恰も日本映画三大巨匠の一人、溝口健二監督の描く、男に献身し倹しく耐え忍ぶ、小心で健気な女性像を印象づけます。
彼女は、前半の沈鬱で臆病な表情が、余命を知り、「死ぬまでにやりたいことリスト」を手にした後半は、目が煌々と輝き、顔つきが明らかに晴れ晴れと澄徹した容貌に変わります。それまでの人生が凝縮された、その一刻一刻が濃密で荘厳な時間であることが在り在りと伝わってきます。
この道行こそ本作のテーマである、「最期に、生きていて良かったと思う人生」を提示してくれています。

また彼女がスクリーンに登場すると途端に、映像が「映画」の画になります。演技巧者の役者が多く共演していますが、他の役者では日常の延長感が漂いTV画面のように見えてくる半面、一たび吉永小百合が現れるだけで、その気品と清楚さと優雅さが画面を覆い、暗闇の中の大画面という非日常空間である映画館で観る映画になります。サユリスト故の贔屓目かもしれませんが、特に後半の道行中でのウェディングドレス姿の、今生のモノとは思えない、眩いばかりの美しさは、思わず息を呑みました。
74歳にして堂々と主役を張り続け、常に鮮やかな存在感を画面に漲らせ、而も常に一定の観客を動員しヒットを続ける、世界的にも稀有な女優。高倉健亡き後の唯一の国民的俳優にして、最後の映画スターと称されるに相応しい作品でした。

先日のNHKの特集番組では、自身をプロフェッショナルではなく、いつまでもアマチュアという意識で居られるとのこと、素人の素朴で新鮮な感性とプロの豊富な経験に裏打ちされた手馴れた技芸の、微妙なバランスの上に常に立っていることを実感します。
芸歴60年、映画出演作121本の国民的女優にも関わらず、映画史に残る代表作のない、全く不思議な、そしていつまでも敬愛し憧憬する役者さんです。

keithKH