劇場公開日 2019年4月26日

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「前のめりになりきれなかった原風異世界冒険ファンタジー」バースデー・ワンダーランド 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0前のめりになりきれなかった原風異世界冒険ファンタジー

2019年11月8日
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鑑賞方法:DVD/BD

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新海誠、細田守、湯浅政明…昨今、人気アニメーション監督の活躍著しいが、個人的に特に好きなアニメーション監督が一人。
原恵一。
『クレヨンしんちゃん』の名作や神作『河童のクゥと夏休み』、『はじまりのみち』では実写作品も手掛け、間違いなく今最も才あるアニメーション監督の一人。
児童小説を基にした4年ぶりの新作。
原恵一作品と言えば、アニメーションでありながら丁寧な人間ドラマ描写。
が、本作は意外や意外、王道の異世界冒険ファンタジー!

主人公は、無気力で自分に自身が無い女の子、アカネ。
誕生日前日、母親に頼まれ、叔母チィが営む骨董屋へ。
突然その地下室から現れた、錬金術師とその弟子。
彼らは、向こうの世界の住人。小説や映画なんかでよく出てくる、すぐ近くにあるけど全然別の世界っていうアレ。
彼らが言うに、今その世界が危機に瀕している。救えるのは、“緑の風の女神”であるアカネだけ。
困惑しながらも、不思議な世界で繰り広げる冒険…。
何処を切っても王道も王道。原恵一もこういうジャンルを手掛けるとは驚きであると同時に、やはり氏も一アニメーション監督。

この手の異世界冒険ファンタジーの醍醐味と言えばその世界観だが、言わずもがな。
カラフルでファンタスティックでイマジネーション豊か。
チィの台詞じゃないが、子供の頃こんな世界でこんな冒険がしてみたかったと思わせる。
キャラやビジュアル・デザインに、日本文化をリスペクトしているというロシアのイラストレーターを起用。
キャラや世界観に何処か洋ファンタジーの雰囲気感じるのはそれ故か。

一見美しい世界だが、“色”が失われつつある。それが、今この世界が陥っている危機。
非道を振るう謎の鉄仮面の男。
この世界を救うって、どうやって…?
鉄仮面の男の正体は…!

主人公アカネはキャラはちとありきたりだが、周りのキャラに助けられている。
堅物錬金術師のヒポクラテスと一寸法師サイズの弟子ピポ。
でも、キャラで一番ユニークだったのは、叔母のチィ。
こっちの世界でも向こうの世界でも、自由奔放な性格。お酒もガブガブ、言いたい事もズケズケ。ヒポクラテスとはチクチク掛け合い。
平凡女の子と堅物錬金術師だけの冒険なら退屈だったかも…。
最も、ヒポクラテスさんもハエになった時はユニークだったけど。

『はじまりのみち』松岡茉優、『百日紅』杏、原作品初参加の市村正親らの声はそう悪くない。
原作品お馴染みの声優も。あの人の「ほほ~い」という台詞も聞けたし、人形でも登場してたもんねー。

映像も音楽も美しく、見ていて心地よい。
話もキャラも面白味ある。猫裁判は笑える。
純粋に童心に返れる冒険と、成長、メッセージ…。
良質要素が揃っている。

が!
残念ながら、これまでの原作品ほどではなかった。
題材や話は悪くないが、作品としての展開や構成に難あり。
旅立つ動機が説明不足で唐突。一応の設定はあるし、異世界への冒険なんていつだって突然始まるが、何か唐突過ぎた。
冒険の目的もあるにはあるが、何だかちと不明瞭で釈然とせず。
ハッピーエンドではあるが、結局何をしたのか、何をしたかったのか。
冒険自体は楽しいが、ハラハラドキドキ、スリルは感じられない。
全体的に終始、ふわっとした感じ。
劇中リンクや伏線も張られているようだが、すぐ読めてしまう。例えば、600年前にこの世界を救った“緑の風の女神”とか。向こうの世界の一年はこっちの世界の一時間(こういう設定嫌いじゃないけど、『ドラえもん』かい!)で、単純計算しても合ってるし。アカネにこの冒険をプレゼントした人物の名前や服の色…。
つまらなくはないが…、不満・難点・イマイチな点が多々。もっと巧みに纏め、活かせられなかったものか。

きっと原監督も、前のめりになって新しいジャンル(冒険)に出たのだろう。
が、結果、前のめりではなく、所々首を傾げる冒険に…。
そういや新海誠も以前異世界冒険ファンタジーへ旅立って、賛否だった。
各々得意ジャンルはあるのかもしれないが、前のめりになれば世界は拡がる。
普遍的なメッセージはハートフルな気持ちにさせてくれるし、今回はまあまあだったが、原監督作品への期待はいつも前のめり。

近大