劇場公開日 2019年8月23日

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「スライド写真付き小説のような映画」火口のふたり Gustav (グスタフ)さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0スライド写真付き小説のような映画

2020年6月9日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

主演俳優ふたりだけで通した、男女の肉欲だけの潔い映画。東日本大震災を絡ませて刹那的な愛欲を表現するも、ラストの富士山噴火のフィクションで深刻さは薄れ、快楽至上主義の楽観さが強まる。荒井晴彦の演出は、日本的な淫靡さがなくアッケラカンとしていいのだが、原作に縛られた脚本故か、説明過多な台詞が二人の会話劇の面白さを削いでいる。映画の一番の美点であるイマジネーションを刺激しない作品であり、スライド写真付きの小説を読んでいるような映画と云える。柄本祐と瀧内公美は、どちらもいい。瀧内は台詞の言い回しに不自然さが残るも、直子役の個性に見えるところがあるのでそれ程気にならない。柄本は、台詞で苦労した後が感じられるが、難役を自己表現の域にしている。

今日の日本映画界では秀作であるのだろう。隙の無いショットに簡潔なモンタージュ、主演二人の好演、個性的な音楽、そして直截的な性表現と一応揃っている。
唯一疑問は、直子の婚約者が自衛隊員の設定である。ストーリーの落ちとして、災害派遣の職業にしただけかもしれないが、ひとり悪者にされている。登場人物の一個人で描かれるなら解るが、これでは自衛隊そのものを揶揄したように受け取れてしまう。
結婚の動機の説明から翻意した形になる直子は我儘な女そのものであり、賢治とは似た者同士ということで終わる単純な物語であった。

Gustav