劇場公開日 2019年7月12日

「マナティ」三人の夫 KinAさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0マナティ

2019年7月17日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

肉体の疼きに取り憑かれて呻き叫ぶムイも、そんな彼女にむしゃぶりつき夢中で腰を振る男達も、誰もが気持ち悪い。
とはいえ観ているうちに、ふくよかな肉付きとスベスベもちもちの白肌、無数の男にのしかかられているとは思えないほどの綺麗なその身体にはちょっと触れてみたいとも思った。

ムイで客を取る二人の老人、まさかの関係図にたまげた。吐き気がする。
矛盾した純情を持つ三人目の夫、メガネはちょっとかわいいけどやっぱり気持ち悪い。
しかし極端な嫌悪感はなぜかだんだん高揚に変わっていき、この人たちを見守っていたい気にもなってくる。

稼いだ金をギャンブルに溶かし、貧しい生活にボロボロで衛生環境の悪い小船の生活。
その割には大きい魚や貝の美味しそうな料理を食べ(海に住んでるから最低限は獲れる)、客を取るムイは気持ち良さそうで、客はもちろん大満足。
とにかく悲壮感や苦労感が無くて、不思議なバランスを保っている。
同情する気にも忌み嫌う気にもなれない。

真顔感のあるリアルなタッチのくせに所々で小ボケをかましてくるので、フッと気の抜けた笑いをこぼしてしまう。
ヘッドフォンで耳を塞ぐお婆ちゃんと赤ちゃん、鰻のくだりと切られた腕のくだりはだいぶ面白い。

アワビやパパイヤなどあからさまな表現をする反面、分かりづらくて理解に苦しむ点も多かった。
色味を失ってモノクロになる意味も、終盤に暴走するムイの行動の意味も、どうしても推し量れない。
そもそも最初からこの映画内で起こることや登場人物に対しての移入がどうしても出来なくて、人間観察をするような心持ちで鑑賞していたので。

最後に神格化的な演出もどうも合わない。
理解の範疇に入らない人間なのは確かだけど、もっと俗っぽく扱ってくれる方が好み。
映画自体がムイを持て余しているような印象も受けた。そんなことないんだろうけどね。

軽度の障害持ちなのかまともに話せないムイ。
その疼きは「性欲」というレベルにすらなっていないように思える。
人の持つ原始的な三大欲求よりももっともっと原始的で、まだ形になれていないような。
それが何だと言われると分からなくなるんだけど、人寂しさとか性欲とか肉欲と表現するのはイマイチしっくり来ない。

何を考えているのかわからないままただ快楽を貪る姿はなかなかインパクトが強く、異種の生き物にすら見えてくる。
かなり失礼な言い方になるけど、だんだん彼女が可愛い顔した豚かマナティに見えてきて仕方なかった。

人魚の正体はマナティだって言うじゃない。
昔の漁師がマナティを人の女の代わりにした話なんて、メガネが力説していた人魚伝説そのものじゃない。呪いはなんだか知らないけど。
その性質も少し似ている。マナティの雌には数多の雄がまとわりついて来るらしい。
それを全部受け入れるのがムイなんだろう。

変態的なプレイが多く出てきて、思わず身が強張った。
金魚のシーンは結構ヤバい。
いやそれ、後でどうするの…?中で腐ったりしてたらめちゃくちゃ面白いな。
パパイヤが一番エロかった。
鑑賞後、ものすごい疲労感と空腹感に襲われた。

KinA