劇場公開日 2019年6月28日

「俺たち、ギャンブル依存症だろォ?」凪待ち KinAさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5俺たち、ギャンブル依存症だろォ?

2019年7月11日
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鑑賞方法:映画館

津波が多くを奪っていった。綺麗な海が残った。
最低で最低な男に津波が押し寄せて洗いざらい持ち去られる様、僅かに残ったものを描いた作品。

内縁状態の恋人とその娘。側から見ればかなり微妙な関係性は自分の家庭状況に若干似ていて(少し違うけど)、娘の美波に自分を重ねるようにして観ていた。
亜弓と郁男の出会いの詳細や二人を繋ぐ絆の描写は少ないけど、自然体の空気感や美波の態度から伝わるものがある。

母親を亡くすのは本当に辛い。この状況なら特に。
もしこれが自分の家族なら、と思って号泣してしまった。嫌だ。絶対に嫌だ。
亜弓の死に対して誰もが何かしらの後悔を抱いてしまうこの状態、やり場の無い喪失感と悔やんでも悔やみきれない念がしんどい。

犯人探しやその動機暴きの要素はかなり少なく、郁男の人となりにスポットが当てられる。
飲む打つキレる、競輪に金を溶かして堕落し続ける彼の姿にはため息しか出ない。

ただ、嫌悪感が少ない。
最悪の人間なのは間違いないけど、その嫌らしさや気持ち悪さよりも彼の哀しさや無様さが強く出ていて、常に「憐れな人」の印象だった。
香取慎吾の見た目や話す口調からそう思えたのかもしれない。

きっと競輪なんてもう楽しくはないんだろう。
やらずにはいられないだけで。
受付の兄ちゃんの呆れたような目線が刺さる。
パナマ諸島の美しい写真の中から出てきたものを抜いたとき、それを受け取ったとき、あまりの惨めさに軽く絶望した。

美波も亜弓も本当なんでこんな人に懐いたんだろう。
頑固ジジイで目もろくに合わせなかった勝美と大切な人を失った者同士、だんだん雪解けしていく様子は地味に嬉しかったけど。
しかし娘目線で観たとき、美波にはあるはずの激情があまり表現されていないことは少し引っかかる。

忘れた頃に突如判明する真相の一部にはびっくりした。いや何でだよ…なんとも言えない後味の悪さ。
この映画の焦点はそこではないとは分かっていても、事の中身を全て知りたい気持ちは収まらず、鑑賞から数日経った今でも考えてしまう。

終盤で見せる断絶の儀式と情けない咽びには胸を締め付けられ打たれた。
ここまで失ってやっと、やっとのこと。それもまた周りに世話になって。

予想できる未来に50万円を賭けたい。

KinA