劇場公開日 2018年11月17日

  • 予告編を見る

「この作品に通底する無常感は正に東洋的だと感じました」A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー ホワイトベアさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5この作品に通底する無常感は正に東洋的だと感じました

2018年12月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

妻Cを残して事故死した夫Mが幽霊に姿を変え妻の帰還を待ち続けるファンタジー作品。動きやセリフが本当に少ないのに、長いワンショットを多用していますので、観る側もそれなりの忍耐と覚悟で臨まないと途中で脱落しかねない難解な作品です。正直私も観終った直後はちんぷんかんぷんでした。しかし一晩明けて思い返すと、この作品は実は時空を超えたある種の哲学を語っているような気がするのです。Mはなぜ幽霊に姿を変えてまでして自宅に戻って来たのでしょうか? 勿論、愛する妻Cを見届けたい気持ちがあったからでしょう。しかしそれならば、彼女が家を出て行ってしまい、新しい住人が住みだしてからも彼がその家に居続けたのはなぜか? ひょっとしたらそれは、自分が生きた証左や足跡が後世に残ることを彼が見届けたかったからではないか、と言うのが私の解釈。しかし時間の流れは残酷なもの。新しい住人たちは勿論のこと、ましてや、家の在った場所に建てられた新しいビルで働く人達はもはや彼が居たことすら知る由もありません。でもそれは至極当然ですよね。人は一旦屍となってしまえばもう風雨に打たれ土に還るしか無く、私達人間はそのような営みを、西部開拓時代は勿論のこと、何百年・何千年にも亘って延々と繰り返してきたのですから。幽霊になったMがそのことに気付いた時、あるがままの自分を受け入れることが出来、幽霊であることを止めたのではないか?、ちょっと東洋的過ぎるかも知れませんが、そのように思えました。そう言えば、この作品の監督が撮影に当たって参考にした映画の一つに「千と千尋の神隠し」を挙げておられるのですが、成る程、幽霊姿のMの風貌はどこか千と千尋のカオナシに似ているようにも見えましたっけ。

ホワイトベア