劇場公開日 2018年4月28日

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「スクエアな社会をあぶり出す」ザ・スクエア 思いやりの聖域 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0スクエアな社会をあぶり出す

2018年5月3日
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鑑賞方法:映画館

知的

難しい

 タイトルがサークルでなくてスクエアなのは、何か意味があるのかもしれない。英語のスクエアには四角四面で融通が利かない人というイメージがある。四角形には円にはない角があり、場合によってはボクシングよろしく、コーナーに追い詰められる。
 非常識なアイデアを実行した主人公が逃げ道を失って四方八方から叩かれる様子は愚かであり間抜けであるが、決して他人事とは思えない。あれはまさに、かつての自分ではないか。いや、もしかしたら現在の自分、或いは未来の自分かもしれない。
 主人公は自律の能力に欠けていて、小さな欲望が抑えられなかったり、くだらないプライドが傷ついただけでつい怒鳴ってしまったり、他人に責任を転嫁したりする。典型的な俗物そのものである。
 そんな俗物が社会の格差についてモノローグのように語り、富の再配分を解説する。苦しい言い訳にも聞こえるが、さすがにインテリゲンチャだけあって、言っていることは実に当を得ている。社会保障が充実しているイメージのスウェーデンで街の至るところにホームレスがいるのは、彼の言う通り、セーフティネットが機能していない可能性がある。

 主人公は救いようのない人物かもしれないが、映画は必ずしも彼を見捨てない。むしろ全力で彼を肯定しているようにさえ感じられる。
 スクエアという思考実験は炎上マーケティングによってよくも悪くも注目を浴びる。その結果、異端を排除しようとする精神構造が世論の中心になっていることが明らかになる。それはまさに、社会全体がスクエアな人々で満ち満ちていることの証左ではないか。

耶馬英彦