劇場公開日 2018年5月25日

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「家族主義と金儲け主義へのアイロニー」ゲティ家の身代金 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5家族主義と金儲け主義へのアイロニー

2018年6月5日
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鑑賞方法:映画館

知的

 アメリカ映画は自分と自分の家族さえよければ他は関係ないという価値観で溢れ返っているようで、家族だけのハッピーエンドがそのまま世界のハッピーエンドであるかのように描かれることが多い気がする。
 しかし本作品では、結局は家族が大事みたいなシーンもあることはあるが、金儲けと家族という、アメリカ人の最も関心の高い二つをいっぺんに笑い飛ばしているように思えてならない。この映画はリドリー・スコット一流のアイロニーではなかろうか。
 人間の欲望は無尽蔵だ。金持ちはどれだけ金持ちになってもまだ足りないと、ゲティ老人は言う。もちろん欲深いのは金持ちばかりではない。自分さえよければいい、今さえよければいい、金さえあればいいというのが現代の風潮だ。いや、現代だけではなく、昔からかもしれない。原始貨幣経済が始まったときから同時に拝金主義も始まった。何でも無限に交換できる貨幣は、人間の欲望を集約する。
 本作品の原題は「All the Money in the World」である。直訳すると「世界中のすべてのカネ」だ。どれだけカネを集めても飽き足りない金持ちに対する揶揄なのか、それとも人間にとってのカネそのもののありようを嘆いてみせているのか。
 登場人物が家族主義と金儲け主義の間で揺れ動くさまは哀れであるが、映画は必ずしも彼らを否定してはいない。どの人物にも激しい執着があり、人間エネルギーのドラマがある。そのどちらの主義にも属さないゲティ3世が、ただ生き延びるために様々な手段を試みる場面は秀逸で、それこそがリドリー・スコットの描きたかったことのような気がする。状況が目まぐるしく変わるので、見ていて飽きなかった。

耶馬英彦