劇場公開日 2020年11月13日

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「ドーナツ」詩人の恋 オクやんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ドーナツ

2020年12月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

済州島を舞台に売れない詩人とドーナツ屋店員とのプラトニックな関係を描いた異色のヒューマンドラマ。詩人は青年が店のトイレで女性客とセックスしている場面を目撃して勃起、その直後に産婦人科で精子のサンプル採取に臨み大量に出たと妊活中の妻に喜ばれることになる。この妻のデリカシーの無さが夫婦関係の破綻の一因だった気がした。
前半では詩人が一方的に青年に好意を寄せ、寝たきりの父親のために床ズレマットや食品を差し入れしたりする。ここからエスカレートしてフィジカルな接触に至るのでは、と思いながら観ていたがそうはならなかった。そもそも詩人はゲイではない。青年への好意は本来の優しさから来ていたように思えたし、青年の方も年上の人の厚意に甘えていただけに見えた。しかし世間や妻は色眼鏡で二人を見てしまい、詩人はゲイの烙印を押されてしまう。青年の父親が病死したことをきっかけに詩人の優しさは常軌を逸してしまい、妻と別居したばかりか青年の面倒を見たいと本人に面と向かって言うほどになる。一度はついていきそうになった青年だがすぐに翻意、この心変わりは生まれてくる詩人の赤ん坊の事が不憫に思えたため・・・ラスト近くで青年はそういう風に述懐していた。つまり詩人同様、青年もまたプラトニックな好意を持ち合わせていたのだ。
ラストで詩人と青年は思いがけず再会する。
過去の非礼を詫びる青年に詩人は3000万ウォンの預金が引き出せるカードを渡す。しかし二人の関係が今の形から前進することも後退することもない。復縁した妻と赤ん坊の一歳を祝っている詩人の表情は穏やかだが寂しげでもあった。オムツを交換しようとした詩人は赤ん坊の顔にキスをする。このラストシーンを見ながらふと思った。ひょっとしたら詩人の青年に対する感情は父性愛という無償の愛だったのではないだろうか。詩人ならその感性を本来言葉で表現できるはずなのだが・・・それが出来ないことで本作は成立していたとも言える。

オクやん