劇場公開日 2018年3月17日

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「アメリカの砂漠で語られる仏教的世界観」ラッキー(2017) osanさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0アメリカの砂漠で語られる仏教的世界観

2018年3月26日
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鑑賞方法:映画館

おかしくて悲しくて あきれさせてくれて でもなぜか希望がある。
偏屈じいさんなんだけど、周囲は彼に優しい眼差しを向ける。
悲しくも優しい眼差しを向けるのは、カメラもそうだ。
だから観ている自分の眼差しも優しくなれる。

アメリカの砂漠で語られる仏教的世界観。砂漠という環境が無情感をうまく醸し出す。
ハリウッドの流行である多様性だのマイノリティだの  me tooだの、バイオレンスだの社会正義だの麻薬だの、あるいは色恋だの、親子の相克だの、アメリカンドリームだの、ある意味画一的ステレオタイプの社会的主張のレベルを突き抜けてしまっていてむしろ好感が持てる。

巷間言われるようにジャームッシュの「パターソン」の偏屈お一人様ジイサン版。詩ではなくて思想、夫婦ではなく一人、何かあるのではなく何もない。ナッシング。

時間が太平洋戦争からまるで止まっている。その後の70年の記憶がないように。いったい彼の戦後とはなんだったのだろうか。それを敢えて描かない脚本・監督のセンスは素晴らしい。
描かないという引き算の映画。日本の伝統的絵画や懐石料理のような味わいがある。時間軸と遠近軸が薄い。時間が止まって空間が扁平化している。
この監督の次回作が楽しみだ。この人、アメリカ人には理解されづらいかも。

この作品を配給したアップリンクさん、グッドジョブです。

osan