劇場公開日 2018年7月27日

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「時が癒すんじゃない。痛みに慣れるだけだ。」ウインド・リバー 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0時が癒すんじゃない。痛みに慣れるだけだ。

2018年8月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

世に、復讐劇の物語はごまんとある。ラストまでサスペンスに満ち、行き詰る捜査に焦れ、怒りに震え、被害者遺族に共感と慰謝の気持ちで労わろうと寄り添い、対して、快楽に溺れた犯罪者に嫌悪を覚えるのはどれも同じだ。先住民に対する偏見や差別なども含め『レヴェナント』を思い出させる映画でもあった。
だけど、この映画の静けさは何だ?主人公ジェレミーの冷静さもどこから来るのだ?、そんな小さなしこりが、物語の進行とともに僅かずつ明かされていく。

被害者の父が、娘の不幸を目の当たりにしながらも毅然とした態度でFBI捜査官の訪問に接していた時、ジェレミーがやってきた。この場面が秀逸だった。なにも語らない。ただ、お互いの気持ちを知り尽くしている者同士の咆哮が、そこにあるだけだ。そしてジェレミーは言う、「時が癒すんじゃなく、痛みに慣れるだけ。痛みから逃げるな。逃げると大事なものまで失う」と。そのシーンで、ジェレミーの家族の過去の出来事もわかる。それがまた見ていて辛い。

ラスト。結局、取り戻せないものはどうしようもない。そことどう向き合っていくのか。そんな心が折れそうになりながらも、逃げたらすべて失ってしまうぞ、と自分にはっぱをかけながら、歯を食いしばって生きていく二人を後ろ姿が痛々しくも気高かった。

栗太郎