劇場公開日 2018年1月26日

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「闘わないフィンとファルコン」デトロイト 幸ぴこリンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5闘わないフィンとファルコン

2018年2月5日
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鑑賞方法:映画館

怖い

興奮

難しい

140分という長さ、上映前は「お手洗いに行きたくなったらどうしよう…」という杞憂で半ば緊張していたのが、開始して15分も経つ頃にはその緊張は全く別の緊張感に切り替わって拳を握っていた。これ程重いテーマの作品に全く長さを感じさせない。ビグロー監督作品では『ゼロ・ダーク・サーティ』が記憶に新しいが、その時も同じようにあっという間に時間が過ぎた。すぐ側で聞こえる鳴き声や怒鳴り声、銃を突き付けられ耳元に聞こえる相手の息遣いにスクリーンを通してひきつけられる。微塵も爽快ではない話と映像なのに味わう臨場感。結論から言えば「観て良かった!!面白かったね~!」と言えるような作品ではない。違ったテンションで「観て良かった…いやあ、凄かったね…;」とこぼしてしまうような映画だった。

冒頭に当時の実際の写真が要所要所に映し出され、資料映像を基に再現して作られたムービーを観ているかのよう。この冒頭部分がこの映画のキモのように思う。
デトロイトに密集して住まわされる黒人の生活が貧困と悲惨さを極め一方的に白人警察に虐められる立場に撮られていたら、全く違った感情をもって観ることになっただろう。差別行為から抜け出さない白人の姿のみならず、黒人達が違法酒場で騒ぎ暴動を起こすことを開き直り、非暴力的だったこれまでが間違いであったと言わんばかりに振る舞う姿も撮られているからこそ、この映画があくまで中立的な視点で描かれている事が伝わってきた。
モーテルでの事件に出てくる名誉除隊軍人役がキャプテンアメリカのファルコン役だし、そもそもディスミュークス君はスター・ウォーズのフィン役だし。ま、まさかここでドンパチ闘っちゃうのでは…?!とか一瞬期待したものの(この事件について事前に学習したわけではなかったので本気の期待込め)、彼らは驚くほどに無力で無抵抗。事件後の裁判シーンでも判決に対して特に誰かが声を上げるわけでもない。常日頃からこういった理不尽さを目に焼き付けられてきたのだろう。この時代に勇気を出して発言をしたり抵抗を見せたりすることがいかに無意味な事であったかが見て取れる。悔しく胸糞悪い思いでいっぱいになるシーンばかりだったけれど、とても「何してんだよ!頑張れよ~」とは思えない。
暴動により狂気に溢れたデトロイトでは、誇りを全うするより1日を生き延びる事を求められる時代であった事を学び取れる140分間だった。

幸ぴこ