劇場公開日 2018年1月26日

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「憎悪が駆り立てる負の連鎖」デトロイト ジンジャー・ベイカーさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0憎悪が駆り立てる負の連鎖

2018年2月5日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

キャスリン・ビグロー監督の作品ということで鑑賞。人種差別や当時の時代背景について考えさせられたとともに、映画の構成や描写についても深く考えてしまった。
ストーリーは1960年代のデトロイトにおける暴動や、不当な黒人差別を描いたもの。テーマが重いだけに、鑑賞していて楽しいものでもなく、見ていて非常に心痛むものである。
演出という面では、本作は今まで見てきた黒人差別をテーマにした映画の中で一番私の印象に残るものとなる気がする。
一つ目にこの映画は主人公が誰かはっきりしない。これはあえてはっきりさせなかったのか、各キャラクター全体をまんべんなく描写しているように思えた。その点、どれか一人のキャラに感情移入するということはしづらいが、全キャラの感情を汲み取りながらも事件全体を俯瞰的に見ることができる。
二つ目にアーティストが登場人物であることから歌を歌ったり、曲が流れることが多く、描写の重さの緩和にはなっているように感じた。
テーマが重い映画は全体を通して鬱屈した描写が続いてしまうと案外鑑賞者は疲れるし、見る気が失せる。特に人種差別をテーマにした場合、ちょっとした鑑賞者を引きつける演出が不可欠になる。本作の場合、張り詰めた空気観から感じられる緊張感がスリルへと転換し、上記の歌や曲が1つの希望へと繋がり、鑑賞していて退屈することは無かった。本作はそのバランスが絶妙で、重いテーマは一貫して露呈していたのにも関わらず、鑑賞者がのめり込む工夫が施されているように感じた。
個人的に好きだったウィル・ポールターの演技もかなり良かったように思える。彼は悪役もこなせるのだなと感服。
キャスリン・ビグロー監督はストレートにこの事件の真相を伝えたかったようには思えない。今の現代に生きる我々の解釈で、どのように過去を見つめるべきかの道標を本作で示したように感じた。

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ジンジャー・ベイカー