劇場公開日 2018年5月12日

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「人生に立ち止まっている人の背中を、そっと後押ししてくれます」四月の永い夢 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5人生に立ち止まっている人の背中を、そっと後押ししてくれます

2018年5月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

初日舞台挨拶あり。
中川監督の前作「走れ、絶望に追いつかれない速さで」という秀作のあと、次作をずっと待っていた。もう、予告だけでも泣けてくるこの映画。すでに見る前から気持ちは出来上がっていた。冒頭の郵便受けから手紙を受け取るシーンで、もう涙。この手紙の主、内容、そして受け取った初海の心情を想像してしまってたまらなくなる。とにかく、朝倉あきの、たたずまいと声がとてもこの役に似合っている。これまで何があったのか、どんな彼だったのか、語られる言葉がとても少ない。むしろ、だからこそ、こちら側の想像の余白は広く、その埋め方は観客にゆだねられているのだ。その想いは、志熊の視点と同じかもしれない。初海がどんな女性なのかは、蕎麦屋の働きっぷりを見ていればわかる。笑顔をみればわかる。もうそれだけで好きになるには十分なのだ。だから映画の中でもそこは必要ないのだ。
初海にとっては、立ち止まっていたこの3年。忘れたことはなく、だからと言って悲しみに暮れているわけでなく、ただなんんとなくそのままで。初海が彼の母に伝えた事実によって、観ているこちら側も辛い思いを共有してしまうのだが、おかげで一歩前に踏み出せたような気がした。そう、主題歌「書を持ち僕は旅に出る」のメロディに、背中を後押ししてもらえたような気分で。
今まるで、脳内で繰り返されるGIFのように、足元に菜の花が咲き乱れる桜並木を歩く初海の姿が頭から離れない。

栗太郎