劇場公開日 2018年9月7日

「求めていたテーマとは違う」累 かさね Ogiさんの映画レビュー(感想・評価)

求めていたテーマとは違う

2018年9月10日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

松浦だるま氏の原作ファンです。

容姿にコンプレックスを持つ女が、美しい女の顔を超自然的な力で奪い、偽物が本物に成り代わって本物の人生をも奪いつくす。
大まかなあらすじは原作通りでした。
ただ、原作の「美醜に囚われた人間の愚かさ」「演劇の面白さ」「執念」「罪悪感」「敵同士の奇妙な友情」「美しさの功罪」「コンプレックスとの対峙」……等々といった繊細なテーマが映画版からは失われ、単に女同士の過激な罵り合いを面白がるためのエンターテイメントとなってしまったことが勿体無く、残念で、憤りすら覚えました。

メディアミックスにあたり、様々な制約からストーリーを変更する必要があるのは当然です。また松浦氏からも、原作そのままの再現ではない、監督独自の創造性で再構築をお願いします、とリクエストがあったことも知っています。

しかしそれを踏まえてもやはり、「美女と醜女が口紅で顔を入れ替える」というアイデア以外の物語の根幹であるテーマの部分に、企画・制作者の皆様が心動かされ、尊重したいと思う要素は何一つ無かったのか。
「この女優とあの女優で女同士の泥沼ものを売りたいが、丁度良く下敷きにできる原作は何かないかな」とキャストありきで商品を企画する漫画原作の邦画の体質がまたしても、という虚しさ。

私の心を動かしたかさねの物語は、映画化を企画したどなたかの売り出したい「商品」とは別物だった。それを確認するために鑑賞できてよかったです。

良い点を挙げるならば、主演2人の演技の本気度です。
今、スクリーンに映っているのはかさねか、ニナか。顔でなく佇まいを見れば(観客にだけは)判断がつく絶妙な演じ分けが、2人とも素晴らしかったです。

「本物のニナ」の拙い演技と「ニナの顔をしたかさね」の弾けるような演技とを1人で演じ分けた土屋さんの努力の程はいかほどか。クライマックスのサロメの舞にも圧倒されました。
かさね役の芳根さんの容貌もやはり美しく、傷一つで人生を悲観するほどの顔にはとても見えません。ジェラルド・バトラー扮する『オペラ座の怪人』のような特殊メイクを邦画に求めるのは贅沢というものでしょうか。

Ogi