劇場公開日 2018年5月12日

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「破天荒な正義を貫く刑事の生き様」孤狼の血 みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5破天荒な正義を貫く刑事の生き様

2022年3月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

怖い

興奮

予想は見事に裏切られた。本作は、バイオレンスとは真逆の正義について考えさせられる作品である。典型的な昭和のバイオレンス作品だと思っていたが、サスペンス、人間ドラマなど、様々な要素が巧みに詰め込まれた見応えのある作品である。

本作の舞台は昭和63年、広島県の架空都市・呉原市。地元暴力団・尾谷組と全国規模の暴力団・加古村組は勢力争いで一触即発状態だったが、ベテラン刑事・大上を始めとする警察の努力で何とか均衡を保っていた。そんな状況の中で、加古村組の関連企業社員が失踪する。ベテラン刑事・大上と新米刑事・日岡は事件の真相解明に奔走するが、尾谷組と加古村組の抗争は次第に激化していく・・・。

全編にわたり、数多く登場する広島弁を効果的に使ったバイオレンスシーンは容赦ない凶暴な描写であり、凄味がある。仁義なき戦いを代表とする東映バイオレンス作品の伝統を感じる。

新米刑事・日岡(松阪桃李)の、正論ではあるが、形に嵌った、融通の利かない、剛直で青臭い正義。一方で、ベテラン刑事・大上(役所広司)の、状況に応じて、凶暴、強か、しなやか、巧み、と変幻自在に変化する破天荒で生々しい正義。この二つの正義の対比が本作のベースになっている。

何といっても、ベテラン刑事・大上役の役所広司が抜群の存在感で際立っている。彼の正義は我々が知る通常の正義とは異なり規格外である。刑事の枠を超え、破天荒な正義で事件に迫っていく。荒唐無稽になりがちな設定だが、役所広司の生々しい人間臭い演技が出色で大上の行動をリアルに魅せてくれる。松阪桃李も新米刑事・日岡を好演している。新米刑事らしい青臭さで大上の行動に唖然とし、戸惑いながら、次第に大上の生き方に惹かれていく姿は、我々観客の気持ちと重なるものがある。感情移入し易い。日岡の気持ちを入り口にして、我々観客は、本作の世界に入り込むことができる。

大上が何故、刑事の枠を超えてまで、破天荒な正義を貫こうとするかは、終盤になるまで明らかにされない。しかし、その佇まい、表情から、大上の正義の目的が垣間見えるのは、役所広司の演技力の賜物である。終盤になって、大上が守ろうとしたものが明かされる。その行動とは裏腹の、大上の揺るぎない信念に心洗われる。

大上の正義は濁っているかもしれないが、目的はハッキリしている。大切なのは正義の形ではない。正義で何を守るべきかである。本作は、我々に、そう問い掛けている。

みかずき
琥珀糖さんのコメント
2022年8月18日

沢山の共感とコメントをありがとうございます。

この映画の役所広司はすごい存在感でしたね。
実は彼の行動を上司に報告するスパイのような松坂桃李は、
映画ではキャリアの刑事でしたね。
白石和彌監督のヤクザ映画は昭和63年の設定ながら、
とても斬新で新鮮ですね。
平成と令和のヤクザ映画なら「ヤクザと家族 The Family」が、
破防法でチカラを無くしたやヤクザ社会をリアルに活写していますが、
エンタメでしかも、刑事の正義(役所広司と松坂桃李)が鮮やかに描かれている(みかずきさんの言葉をお借りしていますが、)
この映画は迫力と面白さの意味で、こちらに軍配が上がると思います。
「孤狼の血 REVELL 2」も更に面白さが進化していましたね。

「仁義なき戦い」は最初の10分で生理的に受け付けませんでした。
やはりこの映画は女性作家が原作者の為か、
女の私にもとても受け入れやすい作りでした。
LEVEL3(続編)があるとしたら、
想像も付きませんね。
長々と書きましてすみません。
ありがとうございました。

琥珀糖