劇場公開日 2017年6月24日

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「父より愛をこめて」ありがとう、トニ・エルドマン 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5父より愛をこめて

2018年1月17日
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鑑賞方法:DVD/BD

笑える

楽しい

幸せ

昨年のアカデミー賞外国語映画賞を有力視されながらも、政治的理由で『セールスマン』に破れ…。『セールスマン』はまだ未見だが、自分だったらこちらに一票入れてたかもしれない。
160分のドイツ映画、途中で飽きるかなと思いきや、ずっと気になってて見たい見たいとレンタルを待ってた甲斐があった。
良かった。昨年中に見ていたら、間違いなくBESTに入れていただろう。

普遍的な父と娘の話なのが、分かり易く、見易くていい。すんなり話に入っていける。
クスッと笑えて、しみじみさせて。ペーソスもある。人の温もりたっぷり。
でも、ちょいとクセがある。
と言うのも、この父ちゃんが風変わりと言うか変人と言うか、問題児ならぬ問題父。

父ヴィンフリート。イタズラ好き。必需品は入れ歯のおもちゃ。
冒頭シーンだけで彼の性格が分かる。
宅配業者が荷物を配達に来て、それは弟のだからと呼びに行くと…、変装して弟のフリしてご本人登場。(ちなみに私もこういう配達の仕事をしてるので、こんな親父が出てきたら、あ~面倒クセぇ…と思ってしまう(^^;)
その宅配業者も呆れ顔だが、彼がやってる事は何も相手を困らせよう、迷惑かけようとしてるのではない。悪ふざけでもない。ただただ、相手を楽しませたいだけ。
“ユーモアを忘れるな”がモットー。
確かにちょっと面倒クセぇ親父かもしれないけど、憎めないんだな。
で、ある日父はルーマニアで働く娘に会いに行く。

娘イネス。バリバリのキャリアウーマン。
画に描いたような、マイペースな父と真面目で堅物な娘。
父の気にかけ虚しく、娘は心を開かない。
ある時父は、娘の大事な仕事を邪魔してしまう。
娘はつい当たり、ぎこちない溝を作ってしまう。
勿論娘も悪いと思っている。一応笑顔で父を見送った後、涙をこぼす。
そんな娘の前に父が突然現れるが、それが何と…

“トニ・エルドマン”と名乗る。
カツラを被って、いつもの入れ歯のおもちゃを付けて、バレバレの変装。
“初対面”の時の娘のドン引いた顔と言ったら…!
一応誰かと一緒の時は娘も他人を装うが(と言うか、恥ずかしくて「父なの…」と言えないだけか(^^;)、二人になったら問い詰める。
しかし、それでも他人で突き通す父。
娘も呆れたのか観念したのか、“他人ごっこ”を続けるが…

何故かトニ・エルドマン、娘…いや、イネスの仕事にくっついていく。
時々本当に邪魔だし、ウザイし、うんざりもするが、これまた何故か周りの人に好かれる父…いや、トニ・エルドマン。

そんな父との交流を通して、娘がまた明るさを…というのも勿論込められているが、それより感じたのは、父と娘が遊んでいるのだ。
誰にも小さい頃あった筈。父親が何かに化けて、一緒になって遊んでくれる、アレ。
そんな父に本当にうんざりし、心底面倒臭く思えても、ついつい笑ってしまう一幕も。
きっとこの父娘は、昔はよく一緒に遊んでいたんだろうなぁ、と、そんな背景が見えた。
いつしか遊ばなくなり、距離を置くようになり…。

ペーター・シモニスチェク、サンドラ・フラー、女性監督マーレン・アーデ、恥ずかしながら初めましてで、失礼ながら一本も作品見た事無いが、素晴らしい!
ヴィンフリート役のペーター・シモニスチェクの、大柄だが何処か可愛らしく哀愁も漂う父親像が絶品。
イネス役のサンドラ・フラーはハンサム・ウーマン。
後、少ししか出番無いけど、イネスの秘書の女の子が可愛い~~。
160分、テンポは結構ゆったりだが、飽きさせずじっくり見せるマーレン・アーデ監督の手腕は賞モノ。
また、この手の作品はオチが定番化してるが(例えば、父が実は余命僅かで…とか)、そうじゃないラストも特筆すべき点。ちょっと唐突に終わって好みは分かれるかもしれないが、余韻は残る。

父の意表付く行動は全て、娘を心配して。娘は幸せにやっているか…?
でも、それが伝わらない。
娘も勿論本当は父の事が好き。だけど、つい…。
でも、それが伝えられない。
性格は違えど、根は似た者同士。
だからどうしても不器用にもすれ違ってしまう。
ありふれた父娘愛の話。それがいい。
万国共通。
親子や家族の絆は、何処の国も変わらない。

さて、こんな良作を勿論ハリウッドが放っておく訳がなく、お決まりのリメイク決定。しかも主演に、あのジャック・ニコルソンが映画復帰!
確かにジャック・ニコルソンがこの役を演じるのは見てみたいし、もしリメイク版が成功したらアカデミー賞でも話題になりそうだが、
でもやっぱり、オリジナルのままがいいんだな、このオリジナルが!

近大