劇場公開日 2018年3月21日

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「曇り空でも涙は降らず」曇天に笑う 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5曇り空でも涙は降らず

2018年10月26日
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鑑賞方法:DVD/BD

単純

『踊る大捜査線』シリーズや『亜人』の本広克行監督作。
舞台は明治時代。300年に一度復活して災いをもたらす怪物“大蛇(オロチ)”を
封印する使命を負った曇(くもう)家の三兄弟の活躍を描くアクション作。

予告編の雰囲気から、この映画は王道の時代劇として観るより一種のマンガ、
言うなればチャンバラファンタジーとして観るべきなのだろうと思っていた。
実際、衣装は新品のようにパリッとしてピカピカだし、見栄えは良いがやたら
アクションしづらそうな衣装もあるし、逆にやたらピッチリ&肩も露な衣装もある。
普段の自分なら「汚しが足りん!」とか「ハイ時代風俗考証ォ!キエエェェ!」とか
書くところも、今回は「そこは本作の目指す雰囲気じゃなさそうだし許容範囲かな」と。

...

映画の見どころとしては――
まずはとにかく、顔ぶれがフレッシュですね。てかイケメンばっか出てますね。
福士蒼汰を筆頭に、敵も味方もマジで細マッチョイケメンしか登場しないので
そんなイケメン好きな女性の方は鑑賞中に奇声を発しないようご注意ください。
メインキャストの最年長も東山紀之なので、まあ空気感が若い若い。
悪く言えば重厚感はないが、良く言えば非常に雰囲気がフレッシュ。

そしてアクション。
冒頭、カメラが祭りに沸く群衆を上から捉え、その後お堀の上を抜けてそのまま
チェイスへと移行するシーンは「おっ」と驚いたし(あれはドローン撮影で
実現したらしい)、その後の主観視点をはさんだ格闘シーンなども凝っている。
同監督の『亜人』並のアクションの量・質・密度は期待しない方が良いし、
肝心のクライマックスのアクションもスローを使い過ぎだと思うが、
悪くはない。出演者のアクションもバシッと映えるように撮られてるし。
特に福士蒼汰のアクションはいつもながらキレが良いね。終盤なんてあの
動きづらそうな衣装でよくあれだけ動けるなと。毎度頑張っとるよね、彼。

...

だけどやっぱり、アクションだけじゃ感情は乗ってこない。
曇三兄弟の絆、主人公と政府直属部隊“犲(やまいぬ)”の確執、
“犲”がオロチ討伐に懸ける想い、そして曇家の使用人・白子。
これらがドラマ的な軸だと思うのだが、正直言って、
そのあたりのドラマに全く心を動かされなかった。

理由は……セリフや感情表現が大味な点に尽きると思う。
どのセリフもどの感情表現もどこかで聞いた書き割りみたいなものしか登場せず、
兄弟・旧友・仇敵へ抱く愛憎入り交じる気持ちがちっとも伝わらってこない。
終盤のあの人の退場シーンも「え、なんで急に善人みたいな扱いになってんのこの人」と釈然とせず。

それと、『亜人』レビューでも似たことを書いた気がするが……
メインキャスト以上に、周りの脇役が失笑するレベルで大袈裟。
なんでこの監督の映画はいつも脇役がこんなに嘘臭いのだろう?
敵の戦闘員はいかにもな悪人ヅラでニヤニヤ絶叫して宙返りしまくる。
これまた『亜人』レビューでも書いたが、雑魚キャラは『北斗の拳』
の世紀末ヒャッハー!モヒカンみたいなテンションの奴ばっかである。
町民たちも、鳥のヒナみたいに一斉に似た台詞をピーチクパーチク……。
どこかで似たものを見た気がすると思って考えてみたのだが、あれだ、
TVショッピングの観客席に座ってる奥様方が隣と顔を見合わせて
「まあ安いわあ!」とか言いながらガヤガヤしてる画にそっくりだ。
白々しいし雰囲気も台無しなので本当に勘弁していただきたい。

物語的な突っ込みどころも、
主人公の天火はなんでわざわざ不利な扇子で闘うのかとか、
あの人は終盤あんなに刺されてどうして生きているのかとか、
なんで政府はあんなところに刑務所を建てちゃったのかとか、
士族=犯罪者くらいの勢いで描かれるのはどうなのかとか、
最大の脅威“オロチ”が弱過ぎるしモヤッとし過ぎてるとか、
まあ色々とあるが、やっぱり個人的に一番の不満はドラマの大味さ。

...

というわけで、原作や出演陣のファンの方には申し訳ないが、
イマイチの2.5判定です。うーん、2.0判定でもいいくらいかも。
メインキャストは衣装もアクションも含めてかっこよく撮れているので
ファンの方々には良いだろうが、逆にそんなアクション面での頑張りが
勿体無いと思えるほど、ドラマ面の出来が残念な映画だった。

<2018.10.25鑑賞>

浮遊きびなご