劇場公開日 2016年11月11日

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「アメリカの愚かなヒーロー」ジャック・リーチャー NEVER GO BACK 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

2.0アメリカの愚かなヒーロー

2016年11月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

予告編で流れていた、バーで保安官に対峙するシーンがとても面白そうだったので、かなり期待して観たが、何のことはない、一番面白かったのがその予告編のシーンだった。
映画の原題「Jack Reacher Never go back」を見ても前作「アウトロー」を観たことを想い出さなかった。前作の邦題こそ原題通りの「ジャック・リーチャー」でよかったのではないかと思うが、3年前のその映画の内容をちっとも覚えていないところから、前作も平凡な作品だったのだろうと思う。

我々は見る映画を選ぶときには十分に気を付けなければならない。ドロップアウトした軍人が事件に巻き込まれる映画だと思うと、なんとなく面白そうに感じられてしまう。この映画でも、追いかけられたり追いかけたり、ハメたりハメられたり、銃をぶっ放したり素手での格闘があったりと、それなりのシーンは沢山ある。しかしこの作品は結局、正義の味方が主人公の勧善懲悪の映画だった。
よく考えたら、ミッションインポッシブルのシリーズにしても、トム・クルーズが相手にしている敵は権力中枢に食い込んではいるものの、あくまで個人とその手下だけだ。権力そのものを敵としているわけではない。どれもこれも、雑魚みたいな悪党が小さな悪事を働いているのを暴くだけというショボいストーリーになっている。

軍隊というものは、平和と反戦の考えを世界の基本的な考え方とすると、存在自体に矛盾を孕んでいる。国家が戦争をしないことを前提とするなら、武器も軍隊も必要ないからだ。
にもかかわらず、殆どの国で軍隊が存在するのは、今も昔も、大抵の国家は平和と反戦を基本的な考え方としていないということだ。軍隊が所持する大量殺戮兵器は民間人と軍人を区別しないので、無差別殺人を目的とする。軍隊の活動は異国の女子供を殺すことであるということに世界中が目をつぶっているから、軍隊が存在し続けることができるのだ。

アメリカ映画がそういう構造的な悪を問題にすることはない。米軍を悪者にした映画は興行的に決して成功しないからだ。アメリカはアメリカという共同幻想に捉われた病人の国だが、他の国も多かれ少なかれ、実態は変わらない。日本会議とかいう右翼団体が政治家のバックにいる極東の小国も、国家主義の幻想に精神的に隷属しているという意味ではアメリカよりももっとひどい状態かもしれない。

トム・クルーズの映画は、軍隊を頂点とする強いアメリカという幻想を壊さないという前提で作られている。暴力で国家を成立させたアメリカの歴史を否定するような世界観を絶対に表現することはないのだ。その象徴的存在がドナルド・トランプ次期大統領である。アメリカは建国以来、何も変わっちゃいない。そしてアメリカ人の愚かな精神性が望むヒーローを演ずるのが、トム・クルーズなのだ。

耶馬英彦