劇場公開日 2017年9月9日

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「民主主義の勝利」ダンケルク 悶さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0民主主義の勝利

2022年4月15日
PCから投稿

(このレビューは、2017年9月に劇場鑑賞した直後に執筆したものです。感想は今でも変わりませんので、当時のまま、掲載させていただきます)

「ダークナイト」や「インターステラー」など、傑作を次々と生み出しているクリストファー・ノーラン監督が、実話をもとに新作を発表したというので、期待しながら、鑑賞に臨みましたが、期待を全く裏切ることのない、秀作でした。

題材となった「ダンケルクの戦い」ですが、これは、第二次世界大戦中、1940年5月から6月にかけて起こった戦いです。
別名、「ダンケルクの奇跡」とも呼ばれるこの歴史的事件は、当時、ドイツ軍の猛攻撃に、フランス・ダンケルクに追い詰められてしまった英・仏の兵士たち40万人を、駆逐艦のみならず、民間船も動員して、救出に向かわせ、実際に、多くの兵士が生還を果たすことができた、というものです。

私は、フィクション作品の場合は、予備知識はあまり仕入れずに鑑賞しますが、本作品のような歴史的に有名な実話を扱っている場合には、Wikipediaなどで、その内容を把握したうえで、鑑賞しています。
それは、実話に基づく作品は、どうなったのか、という結果よりも、その結果がどうやって導かれたのか、その間のドラマが見どころだと考えているからです。

本作品では、観客がダンケルクの救出劇を疑似体験できるように、工夫が凝らされています。それは、3つの視点で、物語を展開していることです。
すなわち──
1. 陸:ダンケルクの防波堤で、救出が成功するように、必死に行動する青年兵士。
2. 海:救出のため、民間船でダンケルクへ向かう、年老いた船長。
3. 空:ダンケルクへの攻撃を阻止するため、英軍戦闘機の操縦桿を握るパイロット。
これらが、交互に描かれることで、ダンケルクの戦いが立体感を保ちながら、観客に迫ってくるのです。
さらに、不安感をかき立てるような、BGMが、緊迫感を増幅させます。
また、台詞を最小限に抑えていたことも、一役買っていたように思います。

この映画は、反戦というよりも、民主主義の勝利を描きたかったのではないでしょうか。
救出に向かった船のうち、民間船は、船員も武器を持たない民間人であったわけで、かなり無謀とも言えるでしょう。
それでも、使命感を持って救出に向かったのは、ナチス・ドイツの独裁政権に立ち向かうということを国全体の方針で決めたのだから、一次的には撤退するけれど、連合軍が勝利を導くような行為であれば、積極的に行おうという国民の総意があったからではないかと思います。

これまでの戦争を題材とした映画とは、ひと味違った作品となっており、クリストファー・ノーラン監督の力量の高さを実感しました。

悶