劇場公開日 2016年4月9日

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「世の男どもよ、女を甘くみるなよ。捨てられるのはお前だぞ。」さざなみ 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0世の男どもよ、女を甘くみるなよ。捨てられるのはお前だぞ。

2016年8月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

結婚45周年パーティーを週末に控えた老夫婦のもとに、夫の昔の恋人の遺体発見の報がとどく。
妻は、「昔のことよ」と気にも留めなかったのだが、次第次第に明るみになっていく、夫の気持ちと秘めた過去。それが知らず知らずに、夫婦関係の崩壊へと傾いていくのだ。間抜けなことに、そのことを当の夫が気づいていないのだから怖いとしか言えない。
かつては魅力的な大人の意見に思えたジェフの政治や同僚についての批判も、なんだかただの負け犬の遠吠えのも聞こえるてくるし、結婚「45」周年記念パーティーでの涙のスピーチも、しらじらしく聞こえてくる。何事もなければ、そんなジェフのスピーチにケイトは感動し涙したのだろう。それまで堪えに堪えていた感情に、ジェフに対する腹立たしさも重なり、ダンスをしても作り笑顔を維持できない。こんな男を私は45年も惚れていたのか。そんなもろもろの感情が極まった瞬間に、あの激しい仕草へとなるのだ。ジェフは、なんでケイトが怒っているのか分からないだろうな。
パーティーのあと、ケイトは何も告げずに離婚を切り出すのだろう。そして周りの知人は、「あの夫婦、あんな楽しそうに45周年パーティーをしたばかりだというのに、世の中わからないことってあるものね」と囁きあうのだ。ケイトの気持ちを微塵も知りもしないくせに。(パーティーのあとのことは僕の妄想です。こういう妄想をさせることが監督の意図なのでしょう)

邦題のようにさざ波のように押し寄せてくる不安と疑念が、妻の感情を穏やかざるものへと変えていく様は、冷めた狂気の感すらあった。
妻を演じるのはシャーロット・ランプリング。失礼ながら、ここ数年映画にはまりだした僕には、未知の方。どうやらかつての名優だという。たしかにその評価に違わぬ名演ぶりに、背筋がひやりとした。
まだ、ひやりとする気付きがあるだけ、自分には救いがあるのだろうか、どうか。

栗太郎