劇場公開日 2016年4月9日

  • 予告編を見る

「思い出します、氷のようなあの顔を!」さざなみ waiwaiさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0思い出します、氷のようなあの顔を!

2016年4月17日
iPhoneアプリから投稿

ヒャー、凍りついた!
そして、シャーロット・ランプリング!美しすぎる。ジーパン姿ですら…

今から40年ぐらい前に、学校帰りに制服のまま友達数人と見に行った「愛の嵐」田舎町には、ハリウッドのパンパカ映画しかやってこず、いつも心からの満足が得られない中で、見てしまった、ヨーロッパの暗くて、深くて、妖しい闇。当時の記憶のままなので、勝手な妄想で歪んで覚えてるとは思いますけど、元ナチス党員として追われている男と、かつて男の愛玩物とされることで生き延びたユダヤの少女だった女が再会し、ドロドロの逃亡生活を送る話だったと思います。ナチスの将校クラブのテーブルの上を将校のかぶる帽子と超短パンと長靴で踊る。上半身がどうだったか、たぶん何も着てなかったかな。そうしなければガス室送りという少女の氷のような表情。それがシャーロット・ランプリングだった。それを下から見回す男たちの視線。デカダンスの極致。そこで彼女に執着した一人の男。ダーク・ボガードでしたよね。ビスコンティの「ベニスに死す」と同時期にこれにもでていたんだと、今気づきましたけど。そして、彼女に出会って、半ば監禁状態にして、社会から断絶してどんどん過去に埋没していく。しかし男は探され、追い詰められる。買い物にも行けず、飢える。やっと手に入れたいちごジャム。これを舐めるシャーロット・ランプリングのエロティシズムときたら!よくこんなものを高校生で見てたもんだと改めて思いますけど。とにかく、強烈な印象が私の細胞に刻み込まれてしまった。
数年前、彼女が久しぶりに映画に出たということで見たオゾン監督の映画は、私的にはがっかりだった。歳をとったことを確認しただけでしたから。しかし、今回は見惚れました。そしてまた、なんていう映画に出てくれたのでしょうか!愛の嵐を思い出したのは、この映画でまさにあの氷のような顔をまた見たからです!教師として普通に過ごしてきた人生の最晩年で、夫との結婚45周年を祝うパーティー。なんのことはないはずだったのに、なんていうことでしょう!
映画は、えー、そこで終わるのっていう感じで終わります。驚きます。そして彼女の氷のような顔。凍りつく。けれど惹きつけられる。ボディブローですね。
まさに「愛の嵐」からほぼ45年たってるのに、その間の時間を吹き飛ばすような一瞬。それは、またこの映画の核心として、夫に起きること。だからそれにつながっている妻にも起きる。記憶の前に現実の積み上げなんて無力…4次元を生きる人間の恐ろしい一面なのでしょうか。この映画も「愛の嵐」も、図らずも副次的なものとして同じことを描いているのかもしれないです。
GO NOWって、やたら明るい曲がラストのクレジット流れる中、ラストシーンの上辺とその奥の心の絶望的で取り返しのつかない解離に、妙な?救いなのでしょうか。この後どうなるのか…怖すぎます。そして、美しい、シャーロット・ランプリング。見に行ってよかった。

waiwai