劇場公開日 2016年7月1日

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「アイリッシュ(ウー)マン」ブルックリン 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5アイリッシュ(ウー)マン

2021年6月12日
PCから投稿

ブルックリンのプロモーションポスターは煉瓦壁にもたれている画の他に、イースト川とブルックリンの町並みをバックに、ぐっと寄って撮られたSaoirseRonanが遠い目をしている絵面のがある。

吸い込まれそうな青い目、透き通るような白い肌、きりりとした眉、彫像のような鼻梁。眩しいかのように、すこし眉間が険しい。見るからに聡明な顔立ち。表情には、郷愁があり、野望もあり、追慕も見て取れる。そのポスターの顔だけで、映画に確信をもつことができる。つくづく語らずに語ってしまう顔だった。

半ばまで、あんがい障壁のない純愛物語だが、姉が死んで、故郷アイルランドに戻ってきてから、にわかに佳境に入ってくる。

トニーと結婚して単身帰郷したのだが、戻ってみれば、仕事もあるし、好青年のジムにも出会う。打算と女心が、千々に乱れる。しかも、ジム役が定評の好青年DomhnallGleesonなので、見ている方としても、シンパシー逆転してきて、やきもきさせられる。どうすんだよエイリッシュ?

故郷での勤め先だった、日用雑貨店の女主人ケリーは、どうしようもない意地悪婆なのだが、結果的に、惑うエイリッシュを、我に返らせる。善良な人ばかりの映画で、ケリーだけが悪人だが、エイリッシュの人生にとって、彼女が必要悪になっていることが、この映画の構造上のポイントだと思った。

故郷と母を捨てて、ブルックリンへ起つエイリッシュ。
アメリカの建国を支えたアイルランド人。ディズニーもケネディも、多数のハリウッドの映画人たちも、そうやって国を捨ててアメリカに渡ってきたのだろう。スコセッシのアイリッシュマンとて、その裏街道編といえる。

移民には、避けられない取捨選択の決断がある。是も非もない。だから郷愁があり、野望があり、追慕があらわれる──のだろう。本質は、厳しい決別の映画だと思う。

Saoirse Ronanをはじめて見たときから、誰かに似ているような気がしていた。けっして豊満ではないのに、頬のふくよかなカーブが特徴。このブルックリンを見たとき、ようやく、気付いたのだが、この人はなんとなくモナリザに似ている。

なんとなく神秘性もある人だが、打ち解けている態度のインタビュー映像なんか見ると、まったくオープンでフランクな感じのひとである。そのギャップもまた女優らしい。

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津次郎