劇場公開日 2016年6月11日

  • 予告編を見る

「鉄人の壁」二ツ星の料理人 デッカートさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0鉄人の壁

2016年6月12日
iPhoneアプリから投稿

私は小さい頃から料理人になるのが夢でしたがその夢は叶わず全く関係ない仕事をしています。なので料理映画となると多少の擁護が入ってしまうのでフェアな評価ではないと思います。
この映画を観て再度料理人にはなれないと再認識しました。
徹底的な完璧主義と、スケジュール管理、全体管理、クリエイティブな思考にストイックさ。さらには睡眠時間を惜しんでまでの新作の研究。本当に料理に命をかけなければならない大変な仕事だと思います。
レストランは調理された食材を食べるだけの一瞬の出来事ではありますが、その一瞬で他の何物にも代えがたい感動を得ることが出来ます。もちろん、ファーストフードの様な添加物と一貫した消費的な食事でも感動を得ることは出来ますが、その可能性の幅は雲泥の差です。

ここまで長々と御託を並べてきましたが、この映画の魅力はなんと言ってもたかが料理に壮大な人生を学ぶという事でしょう。それも説教じみたような臭い演出は削ぎ落とされています。
技術は完璧、コネクションもあるし、環境も整っている。それなのにミシュランで三つ星を取る事が出来ない主人公は何が足りなかったのでしょうか。それは子供でも分かるような当たり前の事ですが、それに気づく事が出来る人は少ないと思います。それも歳をとると気付きにくくなると感じました。

作中”料理は神への挑戦”というフレーズが出てきます。
それは主人公の師匠の言葉なのですが妙にしっくりきてしまいます。カキやりんごはリンゴで完成された美味しさがあるにもかかわらず、それに手を加える事は自然に人工的な加工をするという挑戦になります。それを踏まえれば普段何気なく作る目玉焼きやなんとなく食べている夕食のハンバーグもとても崇高なものに感じていまいます。

昨年公開された映画シェフでは”周りに左右されず初心に帰る事の大切さ”を挙げていましたが、本作は同じ料理というベースでありながら全く違う面白さがあります。シェフが気に入った方であれば間違いなく好きになるでしょう。

デッカー丼