劇場公開日 2016年5月21日

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「終始殴るだけの映画は、確かに新しいけどさ..」ディストラクション・ベイビーズ Cディレクターシネオの最新映画レビューさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0終始殴るだけの映画は、確かに新しいけどさ..

2016年5月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

難しい

名作邦画の聖地であるテアトル新宿は、

金曜夜で超満員。

バイオレンスな劇場予告とポスターだったから、

ちょっとびっくり。

男女比は半々だから、

菅田将暉さんと小松菜奈さん人気なのかな。

想像どおり、冒頭からかなりの衝撃っぷり。

溜め込んだマグマを爆発させるべく、

暴力を重ねて喜びを見出す主人公に、

彼に魅了しうっぷんのはけ口を見つける高校生。

それに巻き沿いを食ったキャバ嬢が絡んでいく。

柳楽優弥演じる芦原は、

本能にまかせて人を殴るサイコ。

ガキも素人もヤクザも関係ない。

殴り殴られ蹴られてうずくまり、

ニヤリとしてふわっと立ち上がって殴り続ける。

アドレナリンを爆発させて快感を感じているやつ。

勝ち負けも関係ない。

喧嘩って、狂ってる奴には絶対かなわない。

戦闘意欲がうせない限り、

殺すまで挑んでくるからだ。

こんなリアリティは、

あまり出会ったことがなかったです。

カメラワークも主人公視点は皆無で、

引きの絵が多いから

終始傍観者のような不気味さ。

さらに暴力は肉体だけじゃなくて、

精神、SNS、メディアと、

様々なカウンターで観客を攻めてくる。

それを2時間とことん見せつけられるので、

こっちも打ちのめされてしまいますね。

とにかく、ここまでやるか!の

演者たちがすごいな。

俳優力が全てを支配してました。

まるで普段の役柄のフラストレーションを、

吐き出しているようだよ(笑)

柳楽優弥さんは、

もう表情や佇まいが狂ってる。

こんな怖いキャラ、あまり見たことがない。

菅田将暉さんは、

カスっぷり満載で死んでもらいたいくらいのダーティさ。

今までのイメージをぶち壊した役作り、

なかなか出来るもんじゃない。

小松菜奈さんは、

身を削った真の演技でさらに垢抜け、

次のステージへ。

この3人が中途半端なら、

無論企画は成立しなかったでしょうね。

しかしそんな演者たちの

素晴らしさもむなしく、

物語は転がらないのですよ。

まず行動のきっかけや性格が全く描かれないから、

魅力的に映らない。

情報がないから、

ワケわからない狂気から置き去りにされる。

あんな冷酷で無感情な男が、

やさしい弟に心配されるのも理解不能だし、

ビビリの高校生が、

喧嘩の強さに感嘆して

モンスターに変貌するわけもなく。

さらにはディテールも甘かったかなぁ。

素人っぽいファイトシーンって

リアルと勘違いするけど、

それは違いますぜ。

格闘技をやっていたからわかるけど、

体重がのってない大ぶりのパンチじゃ

ダメージは与えられないし、

あのガードの甘さでは

すぐに打ちのめされてしまう。

ヤクザというケンカのプロが相手なら、なおさら。

「百円の恋」のイチ子みたいに、

そこはストイックにやらないと

スクリーンではシラけちゃう。

演出で絶対に諦めちゃいけない部分かなぁ。

で、結局そのままお話は何も収束せず、

一筋の希望も見えず、

全てをぶち壊したまま、

非情にもエンディングへ。

監督の確信的な手法なの??

考えさせるっていうなら、

うーん何もなさすぎる(笑)

終始殴るだけの映画は確かに新しいけど、

暴力は方法であって目的ではない。

カタルシスは感じるけど、

テーマがない。

フラストレーションが爆発する狂気なら、

石井岳龍監督のようにメッセージに繋げないと、

その場は印象的でも、

すぐに忘れちゃうかなぁ。

いい線いってるんですけど、残念!!

まぁ非現実を体験するアトラクションなら、

よくできているし観る価値はあります。

けどかなりな後味の悪さだから、

1人で観た方がいいかも。

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